シリコンウェーハ専業のSUMCOは、住友と三菱の技術が結晶して生まれました。 リーマン危機で倒産寸前まで転落し、投資規律を武器にAI需要へ攻めています。
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投資家目線のポイント
SUMCOの業績はシリコンサイクルと呼ばれる半導体の好不況の波に左右されやすく、新工場の稼働タイミングと需要の波がずれると一時的に利益を圧迫する構造があります。2025年12月期の最終赤字は、佐賀の新工場が生んだ減価償却費の増加が主因でした。
経営陣は過去の「倒産寸前」の経験から、需要増の局面でもすぐには工場新設に動かない投資規律を重視してきました。新工場計画の延期や縮小のニュースは、後ろ向きの撤退ではなく、需要動向を見極める経営判断として読む視点が参考になりそうです。
「ライバル同士」の統合——300mmウェーハに賭けた住友と三菱
1990年代末、半導体の主流は200mmウェーハから300mmウェーハへ移ろうとしていました。単独では巨額の開発投資を賄いきれないという事情から、住友金属工業と三菱マテリアル、その子会社の三菱マテリアルシリコンは手を組む決断をします。
1999年、3社は共同出資で「株式会社シリコンユナイテッドマニュファクチャリング」を設立し、300mmウェーハの開発・製造に乗り出しました。2002年には住友金属工業のシリコン事業を譲り受けて三菱マテリアルシリコンと合併し、商号を三菱住友シリコンに変更します。公正取引委員会の審査では、統合後の販売シェアが約30%で国内首位になると見積もられましたが、10%超のシェアを持つ競合や海外メーカーの存在を理由に、競争を制限するものではないと判断されました。
社名を三度変えて——上場、そして3系統の技術が一つになった日
三菱住友シリコンという社名は、まだ最後の形ではありませんでした。2005年、株式会社SUMCOに商号を改め、同じ年に東京証券取引所市場第一部へ上場しています。
翌2006年には、コマツグループのシリコンウェーハメーカーだったコマツ電子金属を公開買付けで子会社化しました。のちにSUMCO TECHXIVと社名を変えたこの会社が加わったことで、住友・三菱・コマツという3系統の技術が一つの会社にまとまりました。
「倒産寸前」——リーマン・ショックが暴いた過剰投資のツケ
2000年代半ば、半導体市場は好況にわいていました。SUMCOは競合に後れを取ることを恐れ、設備投資を積極化していきます。ところが2008年のリーマン・ショックで半導体需要は消え、残ったのは過剰設備と大幅な赤字でした。
2012年1月期まで3期連続の最終赤字が確実な情勢のなか、三菱マテリアル副社長だった橋本眞幸氏がSUMCO社長に転じます。橋本氏は自ら「火中の栗を拾う覚悟」で引き受けたと語り、当時の状況を後年「倒産寸前」という言葉で振り返っています。
582億円の特別損失——太陽電池撤退と1300人の人員削減
2012年、SUMCOは事業再生計画を発表しました。太陽電池用シリコンウエハー事業は「環境改善がみられない」として、伊万里のソーラー工場を閉鎖、連結子会社親会社の決算に売上・利益をまとめて計上する子会社。親会社が過半数の議決権を持つ会社などが対象。のSUMCOソーラーを解散します。
再生計画に伴う特別損失は582億円にのぼり、繰延税金資産の取り崩しも重なって、2012年1月期の最終損失は850億円に達しました。連結社員の15%にあたる1300人の人員削減も実施し、生産拠点を伊万里・台湾・インドネシアなどに集約しています。この計画がまとまった直後、三菱マテリアル副社長だった橋本眞幸氏が新社長に就任し、痛みを伴う再編の実務を引き継ぎました。
半導体不足でも動かなかった——値上げ待ちの投資規律
2021年、TSMCをはじめとする半導体メーカー各社が、ウエハー不足を理由にSUMCOへ早期の増産を繰り返し求めました。世界的な半導体不足が深刻化するなかでも、SUMCOはすぐには動きませんでした。
橋本氏はリーマン・ショック後の過剰設備と大赤字を忘れておらず、値上げが実現するまで新しい工場への投資には動かないという方針を貫きます。慎重な検討を重ねた末、2021年秋にようやく国内で約2,287億円、台湾で約1,150億円の増産投資に踏み切りました。
2,015億円の賭け——AI時代へ、佐賀への大型投資
半導体不足への慎重姿勢から一転、SUMCOは佐賀県伊万里市への大型投資に動きます。2022年、関連施設を含め計2,015億円を投じる新工場の立地協定を佐賀県・伊万里市と締結し、300mmウエハーの増産体制を築きました。台湾でも約1,150億円を投じて新工場を建設し、日台で増産体制を整えています。
急速に増える半導体需要への対応が投資の理由でした。豊富な工業用水が使える伊万里市が選ばれ、2023年の稼働開始、2025年のフル生産体制を目指す計画でした。
AI需要への転換——吉野ケ里延期と14年ぶりの最終赤字
2023年、SUMCOは佐賀県吉野ケ里町などに総額2,250億円を投じる新工場計画を発表しました。ところがスマートフォンやパソコン向けの需要の伸びが止まる一方、AIデータセンター向けの高度なウェーハ需要が急拡大します。2026年、SUMCOは吉野ケ里の新設をいったん延期し、既存工場の設備高度化に振り替える判断をしました。
同じ年、副社長の龍田次郎氏が新社長に昇格し、阿波俊弘社長は退任して常勤顧問に就きました。2012年に社長に就任した橋本眞幸氏も、会長から相談役に退いています。佐賀の新工場が生んだ減価償却費の増加が響き、2025年12月期の最終損益は117億円の赤字となり、決算期変更前の2012年1月期以来およそ14年ぶりの赤字となっています。
