世界一周の旅から生まれたフリマアプリは、個人の家にある「モノ」を動かす巨大な市場になった。 現金出品や個人情報流出という信頼の危機を経て、信用を軸にした金融事業へと広がっている。 10年以上苦しんだ米国事業も、ようやく黒字にたどり着いた。

01

創業から現在へ — ストーリー

2013
世界一周から帰った山田進太郎が、コウゾウを設立
2013年、山田進太郎は「株式会社コウゾウ」を設立しました。前職を売却したあとの世界一周旅行を経て、帰国後にスマートフォンの急速な普及を目の当たりにしたことが、個人間で「モノ」を売買するアプリという着想につながっています。同じ年のうちにフリマアプリ「メルカリ」を公開し、社名もメルカリに改めました。年末までに1日の出品数は1万件を超え、累計出品数は100万件超に達しています。
2014 — 2016
資金調達を重ね、アメリカへ進出
2014年、メルカリは14.5億円を調達し、アメリカに子会社を設立しました。国内の開発体制強化と並行して、米国版アプリの立ち上げにも投資しています。2016年には既存株主に加え三井物産や日本政策投資銀行なども参加する形で約84億円を追加調達し、創業からの累計調達額は約126億円に達しました。この頃には日米合計で3,200万ダウンロード、月間流通額100億円超という規模にまで成長しています。
2017
現金出品と情報流出、信頼を立て直す一年
2017年、メルカリは信頼を揺るがす出来事に相次いで直面しました。クレジットカードの利用枠を現金化する手口として、紙幣を額面より高く出品する行為が広まったのです。同じ年、システムの設定ミスによって最大5万人超の個人情報が外部から閲覧できる状態になったことも公表しています。メルカリは出品前の住所・氏名等の登録を義務化するなど、対策の強化に乗り出しました。
2018
東証マザーズに上場、想定時価総額はマザーズ最大に
2018年、メルカリは東証マザーズ東京証券取引所の上場区分の一つ。2022年の市場再編で、上場企業はプライム・スタンダード・グロースの3区分に分けられた(それ以前は市場第一部・第二部やマザーズと呼ばれていた)。に新規上場しました。公開価格3,000円に対して買い注文が殺到し、取引開始からほどなく気配値は6割上回る水準まで切り上がっています。想定時価総額株価に発行済み株式数をかけた金額。企業の大きさを市場の評価額で示す数値。約6,500億円でマザーズ最大となりました。上場直前期は国内事業が黒字化した一方、米国事業の赤字は続いていました。
2019
メルペイ始動と、鹿島アントラーズへの経営参画
2019年、メルカリはスマホ決済サービス「メルペイ」の提供を始めました。メルカリの売上金などを使える決済サービスです。同じ年、日本製鉄が保有するJリーグ「鹿島アントラーズ」の株式61.6%を16億円で取得し、経営に参画しました。フリマアプリという祖業の外へ、初めて本格的に踏み出した年でもあります。
2017 — 2025
米国事業、10年越しの黒字化
メルカリの米国事業は、2017年6月期以降、累計およそ700億円の営業損失を計上したと報じられています。新型コロナ下の投資判断の読み違いも重なり、2023年6月期の第2四半期決算発表時には、通期の成長目標をいったん取り下げました。それでも撤退はせず、配送料の見直しなどのテコ入れを続けた結果、2025年6月期に初めて通期での黒字化を達成しています。
2025
過去最高益と、AIネイティブカンパニーへの転換
2025年6月期、メルカリの営業利益は過去最高となりました。売上収益・当期利益も前期を上回り、米国事業の黒字化に加え、決済・金融を担うFintech事業の収益も伸びています。同時に会社は「AIを基盤として組織とプロダクトを変革していく」という方針を打ち出し、100名規模のAI専門チームを立ち上げました。
TEN YEARS

10年で、売上は約15.7倍

2,000億円
1,000億円
2016 · · · · · · · · 2025
売上 純利益(手元に残った利益) 赤字だった年
売上
10年前
123億円
現在
1,926億円
約15.7倍に増加
純利益
(手元に残った利益)
10年前
-3億円
現在
261億円
売上100円につき約14円
従業員
10年前
329
現在
2,159
約6.6倍に増加
02

事業の構造 — 何で稼いでいるか

柱 01
フリマアプリ「メルカリ」(Marketplace事業)
個人同士が商品を売買するCtoCマーケットプレイス「メルカリ」と、事業者向けの「メルカリShops」からなる祖業にして中核事業です。スマホひとつで出品から決済・配送まで完結する仕組みが、成長の土台になっています。
柱 02
メルペイなどの決済・金融事業(Fintech事業)
決済サービス「メルペイ」やクレジットカード「メルカード」などを通じて、メルカリグループの金融・決済事業を運営しています。フリマ事業と並ぶ、グループのもう一つの事業の柱です。
柱 03
米国のフリマアプリ事業(US事業)
米国で運営するCtoCマーケットプレイス「Mercari」です。長く営業赤字が続いていた海外展開の主戦場で、配送料の見直しなど地道な改善を重ねた末に黒字が見えてきた事業でもあります。
柱 04
スポーツ・地域事業(鹿島アントラーズ)
Jリーグ「鹿島アントラーズ」の経営に参画する事業です。顧客層の拡大とブランド力の向上を狙い、フリマアプリという祖業の枠を超えた事業機会として位置づけられています。
03

投資指標

株価
——
東証プライム
前日比
——
——
配当利回り
——
年間予想
PER
——
株価収益率
PBR
——
株価純資産倍率
時価総額
——
円換算
52週高値
——
過去1年
52週安値
——
過去1年

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投資家の博士

投資家目線のポイント

メルカリの業績は、国内のフリマ事業(Marketplace)、決済・金融事業(Fintech)、米国事業(US)という性格の異なる3つの事業の合算です。国内フリマ事業が生んだ利益を、長く赤字だった米国事業やまだ規模の小さいFintech事業に投資してきた構造なので、どの事業がどう動いているかを分けて見る視点が参考になりそうです。

米国事業は10年以上苦戦したのち、ようやく黒字にたどり着きました。海外展開が軌道に乗るまでには長い時間がかかりうるという一つの事例として読むこともできそうです。

「父を手伝う少年」——ウユニ塩湖で生まれた創業の着想

メルカリを創業する前、山田進太郎は前職の会社を売却したあと、世界一周の旅に出ました。「そのときしか行けない国に行こう」という基準で、南米やアフリカ、インド、中東などの新興国を中心にめぐったといいます。

なかでも印象に残ったのが、ボリビアのウユニ塩湖からチリへ向かう車中での出来事でした。山田氏はこう振り返っています。「ウユニ塩湖からチリ側まで向かうツアーの車に乗ると、助手席には小学生くらいの少年の姿があって、何日も運転手である父の手伝いをしていたんです」。環境によって生き方や活動が制限されてしまう人たちの存在を、旅の中で実感したといいます。帰国後、スマートフォンの急速な普及を目の当たりにした山田氏は、「僕が新興国で出会った人たちも、いずれスマホを持つ時代が来ると確信したんです」と語っています。この確信が、フリマアプリという着想に結びついていきました。

「コウゾウ」からメルカリへ——5か月で日本最大級になった小さな会社

2013年、山田進太郎は「株式会社コウゾウ」という社名で会社を設立し、同じ年のうちにフリマアプリ「メルカリ」を公開しました。社名も間もなくメルカリへと改めています。

同じ年の終わりには、元ミクシィ取締役CFOの小泉文明氏が経営陣に加わりました。参画当時のメルカリは、リリースからわずか5か月で1日の出品数が1万件を超え、累計出品数は100万件を突破していたと発表されています。ゼロから始まったアプリが、半年足らずで「日本最大級」と呼ばれる規模に育っていました。

資金調達を重ね、アメリカへ

2014年、メルカリは14.5億円を調達し、アメリカに子会社を設立しました。元Rock You創業者が現地に赴任し、早期のアプリリリースを目指すと発表しています。

2016年には三井物産や日本政策投資銀行なども加わる形で約84億円を追加調達し、創業からの累計調達額は約126億円に達しました。この時点で日米合計3,200万ダウンロード、月間流通額100億円超という規模になっていたと、メルカリ自身が発表しています。国内での急成長を、海外展開の原資に変えていく動きでした。

「現金」が売られた春——信頼の危機と登録義務化

2017年の春、メルカリで紙幣が額面より高い価格で出品される行為が広がりました。クレジットカードの利用枠を現金化する手口として使われていたとみられ、その年の秋には利用者が出資法違反の疑いで逮捕されています。同じ年には、システムの設定ミスによって最大5万人超の個人情報が外部から閲覧できる状態になったことも公表されました。

山田進太郎氏は、外部からの指摘で問題に気づいたことについて「深く反省しています」と述べています。メルカリはその後、出品前に住所・氏名等の登録を義務化し、AIによる不正検知の強化に乗り出しました。山田氏は、上場するということは「社会の公器になるということ」だと語っています。信頼を失ってから作り直すという経験は、この会社のその後の対応にも影響を残しています。

買い注文の殺到、上場初日の熱狂

2018年、メルカリは東証マザーズに新規上場しました。公開価格は3,000円でしたが、取引開始からほどなく気配値は6割上回る水準まで切り上がっています。国内外の機関投資家の応募倍率は約20倍、個人投資家は約50倍に達していました。

想定時価総額は約6,500億円でマザーズ最大となりました。ただし、この上場直前期の業績を見ると、国内事業は黒字化していたものの、米国事業の赤字は続いていました。華やかな上場の裏側で、海外展開という宿題はまだ解けていなかったことになります。

「メルペイ」と鹿島アントラーズ——フリマの外に広がった事業

2019年、メルカリはスマホ決済サービス「メルペイ」の提供を始めました。メルカリの売上金などを使える決済サービスです。決済のたびにメルカリアプリの外へ出ていた売上金を、もう一度メルカリの経済圏の中に留めるような狙いを持った事業でした。

同じ年、メルカリは日本製鉄が保有するJリーグ「鹿島アントラーズ」の株式61.6%を16億円で取得し、経営に参画しています。顧客層の拡大とブランド力の向上、新しいビジネス機会の創出という3つが狙いとして説明されました。フリマアプリという祖業だけでは届かなかった層に手を伸ばす試みでもあります。

投資の読み違いから、10年越しの米国黒字化

メルカリの米国事業は、2017年6月期以降、累計およそ700億円の営業損失を計上したと報じられています。米国の高インフレで、中古品売買サービスへの需要が弱まったことも逆風になりました。新型コロナ下でCtoC市場が急拡大した際に人員やマーケティング費用を強化した反動で、その後マイナス成長に陥ったこともあり、2023年6月期の第2四半期決算発表時には、通期の成長目標をいったん取り下げています。

山田進太郎社長は、当時の投資判断について読みを誤っていた部分があったと認めています。それでも撤退はせず、配送料の引き下げや商品体験の改善を積み重ねた結果、2025年6月期に初めて通期での黒字化を達成しました。10年以上かかった巻き返しでした。

過去最高益の裏で、AIネイティブカンパニーへの転換

2025年6月期、メルカリの営業利益は過去最高を更新しました。売上収益・当期利益も前期を上回り、米国事業の黒字化に加え、決済・金融を担うFintech事業の収益も伸びています。

同時にメルカリは「AIを基盤として組織とプロダクトを変革していく」という方針を打ち出しました。100名規模のAI専門チームを立ち上げ、業務プロセス全体を見直す取り組みを進めています。フリマアプリの会社から、AIを前提にした会社へ——上場から7年を経て、メルカリはもう一段の変化を目指しています。