『メイプルストーリー』を生んだネクソンは、韓国・ソウルで生まれたオンラインゲーム会社だ。 『ダンジョン&ファイター』も加わり、本社を東京へ移して東京証券取引所に上場した。 確率操作という大きな傷を負いながらも、いまも新作ヒットで成長を続けている。
創業から現在へ — ストーリー
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
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投資家目線のポイント
ネクソンの収益は依然として韓国のオンラインゲームに大きく依存しています。韓国当局の消費者保護規制やガチャ確率をめぐる規制強化の動きは、今回取り上げた制裁金のように業績へ直結しやすい構造です。
『Dave the Diver』のような買い切り型タイトルのヒットが生まれたことで、基本無料・アイテム課金モデル以外の収益源をどこまで広げられるかが、次の成長を占ううえでの見どころになりそうです。
「風の王国」——26年後にギネス世界記録となった韓国発のRPG
ソウル大学でコンピュータサイエンスを学び、KAIST大学院で修士号を取得したキム・ジョンジュは、1994年、ソウルでネクソンを創業します。
その2年後、ネクソンは『風の王国(The Kingdom of the Winds)』を世に送り出しました。「世界初の大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)」として紹介されているこの作品は、2022年にギネス世界記録から、26年以上にわたり商業運営が続く世界最長のMMORPGとして認定されました。1本のゲームが、いまも動き続けています。
331億ウォンで買った『メイプルストーリー』——世界1億人へ
『メイプルストーリー』は2003年、開発会社Wizetによって韓国でリリースされました。ですが、この作品を世界中に届けるには、開発から流通までを担う体制が必要でした。
ネクソンは翌2004年、Wizetを331億ウォンで買収します。買収後、メイプルストーリー関連の権利は新設されたネクソンコリアに集約され、日本や米国、台湾など各国への展開が本格化しました。利用者は世界で1億人規模にまで広がり、ネクソンを代表するタイトルに育っています。
三井住友銀行から500億ウォン——『ダンジョン&ファイター』という二本目の柱
メイプルストーリーの成功だけでは、韓国のオンラインゲーム市場での競争に安心できませんでした。ネクソンは新たな柱を求め、2008年、格闘アクション『ダンジョン&ファイター』の開発元Neopleを385.3億ウォンで買収します。買収資金の一部は、ネクソン・ジャパンからの借り入れとあわせ、三井住友銀行からの500億ウォンの長期借り入れでまかないました。
翌年、ダンジョン&ファイターは韓国で大きなヒットとなり、ネクソンコリアの営業利益は前の年より75%増えます。この作品はのちに中国でテンセントを通じて配信され、IPの累計売上は150億ドルを超える規模に成長しました。
365億円から1円へ——gloops買収の後始末
2012年、ネクソンはモバイルソーシャルゲームで急成長していたグループス(gloops)を365億円で買収し、日本のモバイル市場に本格参入しました。買収時点のgloopsは、売上高が前年同期比で約5.9倍に伸びるほどの勢いがありました。
ですが、変化の激しいモバイル・ソーシャルゲーム市場でヒット作を継続的に生み出すのは、想定より難しい仕事でした。業績は伸び悩み、2019年末、ネクソンはgloopsの全株式を1円で譲渡することを決めます。同社はこれを機に、経営資源を自社IPとマルチプレイヤー型オンラインゲームに集中させる方針へと転換しました。
大学時代の友人への送金——創業者の取締役辞任
2016年、ネクソンの創業者キム・ジョンジュは、大学時代からの友人で検察幹部だった人物への利益供与の疑いで、韓国検察に起訴されました。2005年、その友人がネクソン株1万株を購入する資金として4億2,500万ウォンを渡していたとされ、友人はその後の株取引で約120億ウォンの利益を得たとされています。
起訴されたのと同じ日、キム氏はネクソンの取締役を辞任しました。金銭を渡した事実自体は認めたものの、見返りに便宜を得た証拠は不十分だとして、のちに無罪となっています。辞任後も、持株会社NXCの最高経営責任者としての立場は続けました。
出現確率ゼロ——キューブ操作が招いた過去最高額の制裁金
2010年、ネクソンは『メイプルストーリー』にランダムアイテム「キューブ」を導入しました。当初は各オプションの出現確率が均等でしたが、その後まもなく、人気のオプションほど出にくいよう確率を変更していきます。ある時期からは、利用者には確率を変えていないと説明しながら、実際には一部の人気オプションの出現確率をゼロに設定していたとされています。
この問題が明らかになったのは2021年でした。韓国公正取引委員会は2024年、電子商取引消費者保護法違反として過去最高額となる116億ウォンの制裁金をネクソンに科します。同じ年、ネクソンは韓国消費者院の勧告を受け入れ、対象となる約80万人の利用者に総額219億ウォン相当を補償することを決め、その際に利用者の信頼回復に力を尽くす考えを示しました。同じ年の終盤には大法院(最高裁)も、訴訟を起こした利用者への一部返金を命じる判決を確定させています。
株式は継がせない——創業者、54歳での別れ
キム・ジョンジュは2022年、ハワイで54歳の生涯を閉じました。持株会社NXCは、うつ病の治療を受けており、症状が悪化していたようだと説明しています。
キム氏は前年までに、スタートアップ支援や小児病院への寄付として9,300万ドルを拠出する意向を示していました。あわせて、自分の子どもたちにはネクソンの株式を相続させない考えも示していたと報じられています。韓国の障害児のリハビリ施設や緩和ケア施設への寄付も重ねてきました。ソウル大学からKAIST大学院へ進んだ一人の学生が始めた会社は、創業者を失ってもなお、韓国を代表するゲーム企業であり続けています。
発売10日で100万本——『Dave the Diver』という意外な一手
創業者を失った翌年の2023年、ネクソンのインディーレーベル「Mintrocket」が手がけた『Dave the Diver』が発売されました。昼は魚を捕る素潜り漁師、夜は寿司屋の店主という一風変わった一人用ゲームです。
発売からわずか10日で100万本を突破し、当時Steamで無料タイトルを除く売上ランキングの首位に立ちました。その後も勢いは続き、7カ月ほどで300万本を超えています。基本無料・アイテム課金型のオンラインゲームで成長してきたネクソンにとって、買い切り型の単体タイトルがヒットしたのは新しい成功パターンでした。
