段ボール箱のまま並ぶ棚と、驚くほど安い値段。「業務スーパー」を運営するのが神戸物産だ。 兵庫の小さな食品スーパーは、自分たちで工場を持つ発想で1,000店舗超の企業に育った。 安さの裏側にある、モノづくりの仕組みをのぞいてみよう。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約2.3倍
(手元に残った利益)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
投資家目線のポイント
業務スーパー事業が売上の9割超を占めるため、この一つの事業の動向が業績に直結します。海外からの輸入食品比率が高く、為替や輸入先の情勢の影響を受けやすい点は、頭に入れておきたいところです。
かつて広げた外食事業を2020年に整理したように、本業以外への多角化は必ずしもうまくいっていません。今後の新しい取り組みがどう位置づけられるかも、見ておきたいポイントです。
加古川の小さな食品店、大手にどう勝つか
沼田昭二は兵庫県加古川市で、個人商店として食品スーパー「フレッシュ石守」を開きました。当時はダイエーやイトーヨーカ堂など大手チェーンが全国展開を進めていた時期です。仕入れ価格でも店舗ブランドでも大手には勝てないとの見方から、流通の工夫ではなく、食品を自分たちで作ることを競争の軸に据えたと伝えられています。
問屋を介さず自社で製造するという、この時の判断が、その後の神戸物産の骨格になっています。
地方スーパーが中国に工場を持つという「異例」
フレッシュ石守は、中国遼寧省に自社工場・大連福来休食品有限公司を設立しました。地方の食品スーパーが海外に自前の工場を持つのは、当時の日本企業としては異例のことでした。
沼田は、現地生産から日本への輸入までを一社で担うウォルマートやマクドナルドなど欧米企業の仕組みに着目していたと伝えられています。商社や問屋を介さない直接調達により、業界平均より低い店頭価格を実現する土台が、ここでできました。
「業務スーパー」という名前に込めた仕組み
フレッシュ石守は業務スーパー本部としてフランチャイズ(FC)体制を発足させ、兵庫県三木市に「業務スーパー」1号店を開きました。自社工場で作り、本部が卸し、加盟店が売るという製販一体の仕組みが、ここで形になっています。
自社で店舗を持つ直営方式ではなくFC方式を選んだことで、店舗投資の負担を抑えながら、全国展開のスピードを上げることができました。
上場後に相次いだ、食品メーカーの子会社化
神戸物産は大阪証券取引所に株式を上場しました。その後、卵や乳製品、大豆食品、水産加工、精肉、製粉、パンなど、さまざまなカテゴリーの食品メーカーを次々に子会社化しています。
売り方よりも、自分たちが売る商品そのものを深く知ることを優先するという考え方を実践し、プライベートブランド(PB)商品の比率を高めていきました。
「継がなくていい」と言われた長男、28歳で経営に加わる
沼田博和は京都薬科大学大学院を修了後、いったん大正製薬に就職しました。父の会社を継ぐことが決まっていたわけではなく、父からは「継がなくていい」と言われていたと語っています。
結婚を機に関西へ戻り、神戸物産に入社したのは28歳のときでした。入社初日から経営会議に加わり、父からの質問に答える形で経営を学んだと伝えられています。父の沼田昭二は2012年、社長の座を博和に譲りました。
自社株買い公表前の情報漏れ疑惑、その結末
証券取引等監視委員会が、インサイダー取引会社の内部情報を知る立場の人が、その情報が公表される前に株式を売買すること。法律で禁止されている。の疑いで神戸物産の本社を強制調査しました。同社が自社株買い企業が自社の発行済み株式を市場などで買い戻すこと。の実施を公表する前に、この情報を得た人物が株を売買した疑いが持たれたものです。
外部弁護士による調査では、延べ153回のヒアリングなどを経て、情報伝達行為を行った事実は確認できないという結論に至りました。ただし内部情報の管理体制には課題があったとして、神戸物産は情報隔離の徹底や内部通報制度の強化など、再発防止策を実施しています。
香港子会社をめぐる、2億8000万円の所得隠し
大阪国税局の税務調査で、神戸物産は3年間で約2億8000万円の所得隠しを指摘されました。税負担の低い香港子会社の所得を、国内所得と合算せずに申告していたことが問題視されたものです。
重加算税を含め約1億6000万円を追徴され、神戸物産はすでに修正申告を済ませています。
広げた外食事業を、数年後に手放す
神戸物産は焼肉店やレストランなど外食事業に参入し、複数のブランドを傘下に持つまでに広げました。ですが利益率は本業の業務スーパー事業に及ばず、外食事業の利益は年々落ち込んでいきました。
2020年、沼田博和社長は外食関連11社の全株式を譲渡し、連結対象から外しています。経営資源を業務スーパーと再生可能エネルギー、惣菜事業に集中させる決断でした。
中国一極からの転換、ベトナムへ
神戸物産は長年、中国の自社工場を海外生産の中心に据えてきました。2025年、ベトナムに現地法人を設立し、生産拠点を東南アジアへ広げ始めています。
人件費の上昇や地政学リスクの高まりに対応する動きです。中国工場から始まった自社製造・自社販売という発想は、調達先を分散させながら今も続いています。
直輸入の冷凍食品、農薬基準超えでの回収
神戸物産は、中国産の冷凍千切りピーマンと冷凍大根から、基準値を超える残留農薬が検出されたとして、合わせて6万7000個超の自主回収を行いました。ピーマンは基準値の3倍、大根は基準値の1.7倍にあたる農薬が検出されています。
神戸物産は「健康被害の可能性は極めて低い」と説明しています。
本業そのものは、その後も拡大を続けています。2026年時点で業務スーパーの店舗数は1,137店舗に達しました。2026年10月期の中間決算では、売上高2,861億円・純利益165億円(前年同期比15.7%増)と、いずれも中間期として3期連続で過去最高を更新しています。
