「キリン一番搾り」でおなじみのキリンホールディングス。 前身は、横浜で経営破綻した外国人醸造所だった。 スーパードライの衝撃、ブラジル・ミャンマー事業の失敗を経て、いまは酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスの4本柱で稼ぐ企業に育っている。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約1.2倍
(手元に残った利益)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
投資家目線のポイント
キリンは海外M&A企業の合併・買収の総称。他社の株式や事業を取得して一体化すること。の巧拙が業績変動の大きな要因になってきました。ブラジルやミャンマーのように、海外進出は政治・経済情勢の影響を受けやすく、海外事業のニュースは成長期待だけでなく撤退リスクとセットで見る視点が参考になりそうです。
酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスと事業の柱が広がり、一つの事業の不振を他の事業が補う構造になっています。特定の事業のニュースだけで会社全体の業績を判断しない視点が大切です。
「ジャパン・ブルワリー」誕生——破産した醸造所を、外国人商人たちが引き継ぐ
1870年、横浜にアメリカ人が開いたビール醸造所は、経営が立ち行かなくなっていました。スコットランド出身の商人トーマス・グラバーは、日本人実業家の岩崎彌之助らとともにこの跡地を買い取り、1885年に「ジャパン・ブルワリー・カンパニー」を設立します。1888年、ドイツ人技師の技術と輸入原料でつくったラガービールを、「キリンビール」として売り出しました。1907年には三菱・明治屋・日本郵船の関係者が中心となって麒麟麦酒株式会社を創立し、経営は外国人商人の手から日本人の手に移りました。
シェア60%からの転落——「アサヒスーパードライ」に出遅れた2年
1980年代半ば、キリンは国内ビール市場で60%を超えるシェアを握り、ライバル不在の首位でした。ところが1987年、朝日麦酒(現・アサヒビール)が辛口の「アサヒスーパードライ」を売り出すと、爆発的に売れて若い世代の支持を集めます。キリンはこの流行を当初一時的なものと判断し、伝統の味を大きく変える決断に踏み込めませんでした。翌々年にはシェアが48.5%まで下落し、長年の首位に陰りが見え始めます。
「一番搾り」——値上げをしない、という社長の決断
シェア低下に危機感を強めたキリンは、会社の命運をかけた大型定番商品の開発に着手しました。開発チームがたどり着いたのは、ビール製造の最初に自然に流れ出る麦汁だけを使う、コストのかかる製法です。一番搾り麦汁だけを使えばコストは上がりますが、当時の社長は「お客様に良いものを安く提供するのが当社の責務」との考えから、値段を据え置いたまま発売する決断を下しました。1990年に売り出された「キリン一番搾り生ビール」は大きな話題を呼び、ヒット商品になっています。
「キリンホールディングス」誕生——医薬品という第二の柱
2007年、麒麟麦酒は組織のかたちを大きく変えます。事業ごとに子会社を分ける純粋持株会社体制へ移行し、社名も「キリンホールディングス株式会社」に改めました。同じころ、医薬品大手の協和発酵工業(現・協和キリン)の株式取得に動き、翌2008年に子会社化します。酒類・飲料に頼ってきた収益構造に、医薬品という新しい柱が加わった出来事でした。
3,000億円の買収——ブラジル事業でつまずいた4年
2011年、キリンはブラジルのビール大手スキンカリオールの株式を約3,000億円で取得し、海外展開を一気に加速させました。ですが現地経済は買収時の想定通りには伸びず、通貨レアルの急落で原料コストが膨らみます。事業は本社の統制が届きにくい分権的な体制で運営されており、立て直しが遅れました。2015年には1,412億円の減損損失を計上し、キリンは1949年の上場以来初めての最終赤字に転落しています。翌々年、ブラジル事業はハイネケングループに売却されました。
クーデターが変えた合弁——ミャンマーからの撤退
2015年、キリンは国軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)と組み、ミャンマー・ブルワリーに51%出資して現地市場に参入しました。2021年、ミャンマーで軍事クーデターが起き、事業を取り巻く環境は一変します。国連がMEHLを国軍の資金源と指摘したことを受け、キリンはMEHLに合弁解消を要請しましたが、国軍と関係のない第三者の買い手も見つかりませんでした。最終的にキリンは合弁会社ミャンマー・ブルワリー(MBL)自体に保有株式のすべてを売却し、2023年にミャンマー事業から撤退しています。
「本麒麟」の急伸——11年ぶりに奪い返した首位
長くアサヒの後じんを拝していたキリンのビール類事業に、転機が訪れます。2020年、低価格の第3のビール「本麒麟」が、外出を控える生活の広がりを追い風に前年から約4割販売数量を伸ばしました。この勢いに支えられ、キリンは上半期のビール類販売数量でアサヒを抜き、11年ぶりに首位を奪い返します。低価格帯の商品が、長年のシェア争いの流れを変えた出来事でした。
ファンケル買収——発酵技術をコスメへ向けた次の一手
酒類・飲料・医薬に続く新たな柱として、キリンはヘルスサイエンス事業の拡大を進めています。2024年、化粧品・健康食品を手がけるファンケルをTOB買収したい会社の株式を、価格・期間・株数をあらかじめ公表して市場外で買い集める手法。で完全子会社化しました。オーストラリアのサプリメントメーカー、ブラックモアズもすでに傘下に収めています。ビール醸造で培った発酵・バイオテクノロジーの技術を化粧品や健康食品に応用する取り組みが、キリンの次の成長領域になっています。
