1941年、新潟の地下に眠るガスを掘るため、国策会社が生まれた。 もう一つの流れは、インドネシアの海を目指した小さな探鉱会社だった。 二つの源流が合わさり、日本最大級のエネルギー開発企業INPEXになった。

01

創業から現在へ — ストーリー

1941 — 1962
国策会社「帝国石油」、新潟でガスを掘り始める
1941年、政府は国内の石油鉱業各社の鉱業部門を一つにまとめ、帝国石油を設立しました。半官半民の国策会社として発足し、戦後の1950年に民営化されると、新潟や秋田で油田・ガス田の開発を続けます。1962年には新潟と東京を結ぶ国内初の長距離高圧天然ガスパイプラインを完成させました。
1966 — 1979
インドネシアの海を目指した、もう一つの源流
同じころ、海外での石油資源開発を目指す動きも始まっていました。1966年、北スマトラ海洋石油資源開発という会社が設立されます。のちに国際石油開発と名乗るようになるこの会社は、インドネシアの沖合で油田の発見を重ねました。国内では帝国石油が探鉱を続け、1979年、新潟県長岡市で南長岡ガス田を発見します。のちに国内生産量の4割を占める、日本最大級のガス田でした。
1998 — 2008
西豪州の賭けと、二つの会社の統合
1998年、国際石油開発は西オーストラリア沖の鉱区権益を、日本企業として異例の単独オペレーターとして取得しました。試掘を重ねた末、2002年に巨大なガス・コンデンセート田を発見し「イクシス」と名付けます。同じころ、国際石油開発と帝国石油は経営統合に向けた協議を進め、2006年に共同持株会社他の会社の株式を保有し、グループ全体の経営管理を担う会社。自らは事業を行わないことが多い。を設立、2008年、両社は合併して国際石油開発帝石が発足しました。
2009 — 2018
イクシスLNG、340億ドルの開発決定
イクシスの商業化には数兆円規模の投資が必要で、単独では担いきれない規模でした。仏トタルなどとの提携を経て、2010年に大型増資を実施し、2012年、総事業費340億米ドルでの最終投資決定にこぎつけます。開発は労働力不足や天候の影響で計画より遅れ、投資額も膨らみましたが、2018年、ついにイクシスLNGは操業を開始しました。
2015 — 2020
アブダビの権益拡大と、コロナ禍の赤字
2015年、国際石油開発帝石は国際入札を経て、アブダビ陸上鉱区の権益を40年間にわたり獲得しました。中東での大規模な権益獲得は、日本企業として久しぶりの成果でした。ですが2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で原油価格が急落し、資産の減損保有する工場・設備や、買収でついた「のれん」などの資産価値が下がったとき、目減り分を損失として計上する会計処理。を計上した結果、上場後初めての純損失を計上します。
2021 — 2025
INPEXへ社名変更、脱炭素時代への転換
業績はその後急速に回復し、資源価格の上昇を追い風に過去最高益を更新していきます。2021年、会社は商号を株式会社INPEXに改め、同時に2050年ネットゼロカーボン社会に向けた事業方針を発表。2022年策定の「INPEX Vision @2022」で2050年ネットゼロを正式に宣言しました。2025年発表の「INPEX Vision 2035」では、水素・アンモニア・CCSなど次世代エネルギー分野への投資方針を打ち出しています。
TEN YEARS

10年で、売上は約2.3倍

2.5兆円
1.2兆円
2016 · · · · · · · · 2025
売上 純利益(手元に残った利益) 赤字だった年
売上
10年前
8,744億円
現在
20,114億円
約2.3倍に増加
純利益
(手元に残った利益)
10年前
462億円
現在
3,938億円
売上100円につき約20円
従業員
10年前
3,228
現在
3,720
約1.2倍に増加
02

事業の構造 — 何で稼いでいるか

柱 01
海外の石油・天然ガス開発事業
アブダビやカシャガン(カザフスタン)など中東・中央アジアを中心に、権益を持つ油田・ガス田から原油や天然ガスを生産する事業です。事業活動の海外比率は約9割に達し、収益の柱になっています。
柱 02
イクシスLNGプロジェクト
オーストラリア沖で生産した天然ガスを液化し、LNGとして輸出する事業です。年間生産能力はLNG約890万トン・LPG約160万トンで、INPEXの主力プロジェクトの一つに育ちました。
柱 03
国内天然ガス・石油事業
新潟の南長岡ガス田をはじめとする国内の油田・ガス田から天然ガスや石油を生産し、パイプラインで都市ガス会社などに供給する事業です。祖業である帝国石油以来のエネルギー供給網を、子会社を通じて今に受け継いでいます。
柱 04
次世代エネルギー事業
CCS(二酸化炭素の回収・貯留)や水素・アンモニア、再生可能エネルギーなど、脱炭素に向けた新規事業です。「INPEX Vision 2035」で掲げる成長分野の一つに位置づけられています。
03

投資指標

株価
——
東証プライム
前日比
——
——
配当利回り
——
年間予想
PER
——
株価収益率
PBR
——
株価純資産倍率
時価総額
——
円換算
52週高値
——
過去1年
52週安値
——
過去1年

取得中…

投資家の博士

投資家目線のポイント

原油価格の変動が業績に直結しやすい会社です。2020年には価格急落で赤字に転じ、その後は資源価格の回復とともに過去最高益を記録しました。資源価格が業績を大きく揺らす構造を踏まえて数字を見る視点が参考になりそうです。

イクシスやアブダビのような巨大プロジェクトは、投資決定から生産開始まで長い年月がかかるのが特徴です。当期の投資判断は、数年後の生産量を左右する先行指標として読む視点が参考になりそうです。

国策会社「帝国石油」、新潟でガスを掘る宿命

1941年、政府は国内の石油鉱業各社の鉱業部門を一つにまとめ、帝国石油を設立しました。半官半民の国策会社としての発足です。

戦後の1950年、帝国石油株式会社法の廃止にともない民営化され、東京・大阪の証券取引所に株式を上場します。新潟や秋田で油田・ガス田の探鉱を重ね、1962年には新潟と東京を結ぶ国内初の長距離高圧天然ガスパイプラインを完成させました。この会社が、のちのINPEXの片方の源流になります。

インドネシアの海から始まった、もう一つの源流

帝国石油が国内で地盤を固めていたころ、海外に活路を求める動きも始まっていました。1966年、北スマトラ海洋石油資源開発株式会社という会社が設立されます。海外での石油資源の自主開発を目指す取り組みでした。

この会社はその後、社名をインドネシア石油資源開発、インドネシア石油と変え、1970年にはインドネシア・マハカム沖(東カリマンタン)でアタカ油田を発見しています。2001年には国際石油開発と名乗るようになり、「日本最大規模のエネルギー開発企業」へと育っていきました。

「南長岡」——国内生産の4割を支えるガス田

1979年、帝国石油は新潟県長岡市でガス田を発見します。南長岡ガス田と名付けられたこの地下4,000〜5,000メートルの大深度ガス田は、1984年に生産を開始しました。

パイプラインで甲信越や北関東の都市ガス事業者に供給されるこのガス田は、いまも国内天然ガス生産量の約4割を占めています。海外の大型プロジェクトに注目が集まりがちなINPEXですが、国内事業の足場は今も新潟にあります。

単独オペレーターという賭け、西豪州で見つけた巨大ガス田

1998年、国際石油開発は西オーストラリア沖の鉱区権益を取得しました。日本企業が海外の探鉱鉱区で単独のオペレーターを務めるのは、当時としては異例のことでした。

2000年に試掘を始め、2002年、巨大なガス・コンデンセート田を発見し「イクシス」と名付けます。埋蔵量は原油換算で約12億バレル。この発見が、のちにINPEX最大の収益源になるイクシスLNGプロジェクトの出発点になりました。

帝国石油と国際石油開発、67年の歴史が合流する

国内で歩んできた帝国石油と、海外で成長した国際石油開発。二つの会社は2005年、経営統合に向けた株式移転契約を結びます。2006年に共同持株会社を設立し、東証一部東京証券取引所の上場区分の一つ。2022年の市場再編で、上場企業はプライム・スタンダード・グロースの3区分に分けられた(それ以前は市場第一部・第二部やマザーズと呼ばれていた)。に上場しました。

2008年、持株会社は傘下の2社を吸収合併し、国際石油開発帝石株式会社として一つの会社になります。1941年に生まれた帝国石油は、67年の歴史に幕を下ろしました。国内と海外、二つの源流がようやく一つの川になった瞬間でした。

黄金株を持つ会社——経済産業大臣が拒否権を握る上場企業

INPEXの前身・国際石油開発は、かつて石油公団が保有していた拒否権付きの黄金株通常の株式を上回る特別な議決権を持つ株式。特定の重要事項に拒否権を持たせる場合などに使われる。を引き継いでいました。2005年に石油公団が解散した際、この黄金株は経済産業大臣に継承されます。

2006年に共同持株会社(国際石油開発帝石ホールディングス)が発足し、2008年に帝国石油と統合して国際石油開発帝石になったときも、この仕組みは維持されました(社名がINPEXになるのは2021年です)。経済産業大臣は現在も約22%の株式を保有する筆頭株主で、重要な経営判断に拒否権を持ちます。エネルギー安定確保という国策を背負いながら、東京証券取引所への上場を認められている珍しい会社です。

「震えるような投資決定」——イクシスLNG、340億ドルの賭け

イクシスの商業化には数兆円規模の投資が必要でしたが、一社で担いきれる規模ではありませんでした。国際石油開発帝石はフランスのトタルなどに権益の一部を譲り、パートナーシップを組みます。2010年には約5,200億円の大型増資も実施しました

2012年、総事業費340億米ドルでの最終投資決定(FID)にこぎつけます。当時の北村俊昭社長は、決定の瞬間について「震えのようなものがあった」と振り返ったと報じられています。自己資本を上回る規模の投資に踏み切った決断でした。

1年半の遅れと7,000億円の上振れ、それでも動いたイクシス

豪州での労働者不足や雨季の影響で、イクシスLNGの建設は計画通りに進みませんでした。当初2016年末を予定していた生産開始は、約1年半ずれ込みました。投資額も計画から膨らみ、総事業費は当初の340億米ドルから約400億米ドルまで増えました。

それでも2018年、イクシスLNGはついに操業を開始します。年産能力はLNG約890万トン・LPG約160万トン。困難な工事を乗り越えたこのプロジェクトは、いまやINPEXの主力事業の一つに育っています。

「クラウンジュエル」を手にした日——アブダビの陸上鉱区権益

2015年、国際石油開発帝石は国際競争入札を経て、アブダビ陸上鉱区(旧ADCO)の権益5%を40年間にわたり獲得しました。アブダビ政府がこの鉱区を「クラウンジュエル」と呼んでいると報じられています。

同年、獲得した権益原油の第1船がアブダビのジャベルダンナ港を出港し、和歌山県の製油所に到着しました。大規模な油田権益の獲得は、日本企業としては久方ぶりの成果と報じられています。海上油田(ADMA)には1973年からすでに参加しており、陸上鉱区の権益獲得で中東での基盤がさらに厚くなりました。

1,117億円の赤字から、過去最高益への転換

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で原油価格が急落しました。国際石油開発帝石は資産の減損を計上し、1,117億円の純損失という、上場後初めての赤字に転落します。

会社はその後、投資計画の見直しや株主還元方針の改定などで財務体質を見直しました。2021年に商号を株式会社INPEXに改め、資源価格の回復も追い風に、2022年には4,984億円という過去最高益を記録しています。一度の赤字は、その後の数字で塗り替えられました。