冷蔵庫やエアコンでおなじみの日立製作所。その正体は、発電から鉄道、ITまで手がける巨大企業だ。 2009年、製造業史上最大の赤字を出し、そこから選択と集中で生まれ変わった。 いま日立は、エネルギーとデジタルを両輪にした企業へと姿を変えている。

01

創業から現在へ — ストーリー

1910 — 1920
久原鉱業の修理工場から、株式会社日立製作所へ
1910年、小平浪平は久原鉱業日立鉱山に付属する修理工場で、国産初となる5馬力誘導電動機を完成させました。日立はこの年を創立年と位置づけています。1911年には久原鉱業の一工場として電気機械の製造を本格化し、1920年、日立・亀戸の両工場を擁する株式会社日立製作所として独立しました。
1920 — 1945
電気機関車から冷蔵庫まで、製品群を広げる
独立後の日立は、大型電気機関車やエレベーター、電気冷蔵庫などを次々に製品化しました。1937年には国産工業を吸収合併するなど規模を拡大しています。戦時体制のもとで軍需生産にも関わり、戦後の1947年、創業者・小平浪平は公職追放の対象になりました。
1945 — 1970
家電から重電まで手がける総合電機に成長
戦後、日立は家電から発電設備までを幅広く手がける総合電機メーカーへと成長しました。1960年には国鉄向けの座席予約システム「MARS-1」を完成させ、1964年には東海道新幹線用の電車を製作しています。この時期には日立化成工業や日立建設機械製造(現・日立建機)など、事業ごとの分社化も進みました。
2008 — 2009
リーマン・ショックで製造業最大の赤字に
2008年のリーマン・ショックを受け、日立は2009年3月期の連結決算で当期純損失7,873億円を計上しました。これは当時の日本の製造業として過去最大の赤字でした。
2009 — 2013
「選択と集中」への転換とV字回復
2009年、川村隆が社長兼会長に就任し、意思決定の迅速化と、上場していたグループ会社の完全子会社化ある会社の株式を100%取得し、経営の意思決定権を完全に握ること。を進めました。この改革を経て日立は黒字に転換し、2013年度には過去最高となる営業利益を計上しています。
2019 — 2021
英国原発から撤退、ABBとGlobalLogicを買収
日立は2019年に凍結していた英国での原子力発電所建設計画から、2020年に撤退しました。同じ2020年、スイスABBの送配電事業を買収し、2021年には米GlobalLogicも取得して、エネルギーとデジタルの両分野を強化しています。
2021
英国の高速鉄道車両に亀裂、大規模な運休に
2021年、日立が納入した英国の高速鉄道車両「クラス800」シリーズで、車体下部のボルスタに亀裂が見つかりました。主力の高速列車が運休し、運行会社は大幅な減収が避けられないと報じられています。
TEN YEARS

10年で、売上は約1.2倍

15兆円
7.5兆円
2017 · · · · · · · · 2026
売上 純利益(手元に残った利益)
売上
10年前
91,623億円
現在
105,868億円
約1.2倍に増加
純利益
(手元に残った利益)
10年前
2,313億円
現在
8,024億円
売上100円につき約8円
従業員
10年前
303,887
現在
287,901
約5%減少
02

事業の構造 — 何で稼いでいるか

柱 01
デジタルシステム&サービス(ITとデータ活用)
システム構築やクラウド、ATMなどのITサービスに加え、日立のデジタル基盤「Lumada日立が展開する独自のデジタル基盤・サービス群の名称。工場やインフラの現場データをITやAIで分析し、顧客企業の業務改善につなげる。を通じて他の事業のデータ活用を支える中核事業です。米GlobalLogicの買収で、ソフトウェア開発力を大きく強化しました。
柱 02
グリーンエナジー&モビリティ(送配電・原子力・鉄道)
発電・送配電システムや原子力関連機器、鉄道車両・信号システムを手がける事業です。ABBの送配電事業を買収して誕生した日立エナジーが、この分野の中核を担っています。
柱 03
コネクティブインダストリーズ(産業機器・ビルシステム)
昇降機などのビルシステムや産業機器、半導体・医療分野向けの計測分析装置を手がける事業です。現場の設備とデジタル技術を組み合わせるOne Hitachi日立グループ内のさまざまな事業・子会社が持つ技術やデータを横断的につなぎ、グループ全体の総合力で顧客の課題を解決しようとする経営方針。」戦略の一翼を担っています。
柱 04
生活・家電事業
冷蔵庫や洗濯機、エアコンなど、創業以来長く手がけてきた家電・生活家電を扱う事業です。かつての総合電機の名残として、いまも日立ブランドの製品を家庭に届けています。
03

投資指標

株価
——
東証プライム
前日比
——
——
配当利回り
——
年間予想
PER
——
株価収益率
PBR
——
株価純資産倍率
時価総額
——
円換算
52週高値
——
過去1年
52週安値
——
過去1年

取得中…

投資家の博士

投資家目線のポイント

日立は日立化成や日立金属など多くの子会社を手放し、いまはエネルギー・モビリティ・ITを軸にした事業構成に姿を変えています。今後は、事業間でデジタル基盤Lumadaを共有できるかが、成長を左右する視点になりそうです。

ABBやGlobalLogicのような大型買収を重ねる一方で、英国の原発計画撤退や鉄道車両の不具合のように、海外の大型プロジェクトでつまずいた例もあります。海外事業の進み方は、業績を見るうえで注目しておきたいポイントです。

「5馬力誘導電動機」——鉱山の修理工場から生まれた国産技術

1906年、小平浪平は茨城県の日立鉱山に工作課長として入りました。小平は電気機械の国産化を志し、1910年、国産初の5馬力誘導電動機を完成させています。

日立はこの年を創立年と位置づけています。翌1911年には久原鉱業の一工場として電気機械の製造を本格化し、1920年には日立・亀戸の両工場を持つ株式会社として独立しました。鉱山の修理工場が、のちに日本最大級の総合電機メーカーへ育っていく出発点でした。

小平浪平、「公職追放」からの復帰

創業者・小平浪平は、1929年から1947年まで日立製作所の初代社長を務めました。戦時中の軍需生産への関与を理由に、敗戦後の1947年、小平は公職追放の対象になっています

追放が解除されたのは1951年のことでした。小平は同じ年、日立の相談役として復帰しますが、その年のうちに77歳で亡くなっています。国産化にこだわり続けた技術者の晩年は、戦争の時代と重なっていました。

新幹線とMARS-1——高度成長を支えた技術力

戦後、日立は家電から発電設備までを手がける総合電機メーカーへと成長しました。1960年には国鉄向けに座席予約システム「MARS-1」を完成させています。当時としては先進的な、コンピューターによる座席管理の仕組みでした。

1964年には東海道新幹線用の電車も製作しました。高度経済成長期の日立は、鉄道インフラという社会の基盤を支える技術を、次々と実用化していきました。

「7,873億円」——製造業史上最大の赤字

2008年秋のリーマン・ショックは、世界中の製造業を直撃しました。日立も例外ではなく、自動車や半導体向けの需要が急減し、2009年3月期の連結決算で当期純損失7,873億円を計上しています。

これは当時の日本の製造業として過去最大の赤字でした。売上高が前の期から1割以上落ち込み、繰延税金資産の評価減なども重なった結果です。日立にとって、戦後最大級の危機でした。

「100日ルール」——川村隆が敷いたラストマン精神

巨額赤字を受け、2009年に社長兼会長に就任したのが川村隆でした。川村は、社長・会長と副社長5人の合計6人だけで100日以内に重要事項を決めるという意思決定の仕組みに変えたと、自著で振り返っています。

さらに、上場していたグループ会社の完全子会社化も進めました。子会社に流れていた利益を本社に取り込み、グループ全体の力を集める狙いだったと川村は説明しています。この改革を経て、日立は黒字転換を果たしました。

上場子会社を切り離す「選択と集中」

黒字転換のあとも、日立の事業再編は続きました。かつて20を超えていた上場子会社は、日立国際電気やクラリオンなどの売却を経て、2019年時点で4社にまで減っています

さらに「御三家」と呼ばれた日立化成は、昭和電工へのTOB買収したい会社の株式を、価格・期間・株数をあらかじめ公表して市場外で買い集める手法。が2020年に成立して日立の手を離れました。日立金属についても、全保有株式をファンド連合に売却すると発表しています。祖業に近い素材・部品の事業よりも、エネルギーとITに経営資源を集中させる判断でした。

英国原発、凍結から撤退までの20カ月

日立は英国アングルシー島で、新規原子力発電所を建設する「ホライズンプロジェクト」を進めていました。ですが資金調達や採算のめどが立たず、2019年にプロジェクトを凍結し、その時点で減損保有する工場・設備や、買収でついた「のれん」などの資産価値が下がったとき、目減り分を損失として計上する会計処理。損失等2,946億円を計上しています。

凍結から時間が経っても状況は改善せず、日立は2020年、正式にプロジェクト運営からの撤退を決めました。海外での大型インフラ事業に伴うリスクの重さを、日立自身が示した出来事でした。

「クラス800」の亀裂——英国高速鉄道の大量運休

日立は英国で、高速鉄道車両「クラス800」シリーズを走らせていました。ですが2021年、車体を持ち上げる部分などに亀裂が見つかり、地元記者の取材によれば亀裂が確認された車両は800両にのぼったと報じられています。

亀裂の原因について日立レールは、応力腐食割れの可能性を挙げたと報じられています。ドル箱である高速列車の運休によって運行会社は大幅な減収が避けられないとされ、「鉄道の日立」の信頼を損ねる出来事になりました。

ABBとGlobalLogic——1兆円級の買収で描いた次の成長

2020年、日立はスイスABBの送配電システム事業を約7,400億円で買収し、日立ABBパワーグリッド(現・日立エナジー)を発足させました。翌2021年には、米国のIT企業GlobalLogicを約1兆円で買収しています。

送配電というエネルギーの基盤と、ソフトウェア開発力という両輪を、あわせて1兆円を大きく超える投資で手に入れたことになります。日立は現場とデジタルをつなぐ事業モデルへの転換を進めています。