マンション建設で国内最大手の長谷工コーポレーションは、尼崎の小さな工務店から始まった。 バブル崩壊で1兆3,000億円の借金を抱え、株価13円まで沈んだが、今は建てたマンションが国内ストックの約1割を占めている。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約1.6倍
(手元に残った利益)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
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投資家目線のポイント
2024年問題や資材費の高騰を背景に、マンション建設から撤退する競合が増え、この会社に工事が集中しやすい構造になっています。業界内の受注シェアがどう動くかを見る視点が参考になりそうです。
かつて経営危機で大規模な債務免除を受けた過去を持つ会社です。海外事業など新しい分野に広げるときは、それが祖業のマンション建設とどう結びついているかを見る視点も参考になりそうです。
「長谷川工務店」——尼崎の木造建築請負から始まる
1937年、23歳だった長谷川武彦は、兵庫県尼崎市で長谷川工務店を個人創業しました。手がけたのは木造の学校や社宅の建築です。大阪工業大学の前身にあたる関西高等工学校で建築を学んだ武彦は、「商売一途に徹した関西商人」だったと伝えられています。
1946年、工務店は株式会社に改組されました。戦後の好景気に乗って事業は拡大し、大阪と東京での株式上場も果たします。マンション建設で国内最大手になるこの会社の出発点は、尼崎の小さな木造建築屋でした。
東京オリンピック後の不況が、マンション屋への転身を促した
1950年、長谷川工務店は伊藤忠商事から鉄筋コンクリート造の集合住宅「芦屋打出荘アパート」を受注しました。木造中心だった地方の工務店が、全国市場へ出ていく技術基盤を得た案件だったといわれています。
転機は1964年の東京オリンピック後にやってきます。建設需要の反動で経営が悪化したことが、マンション建設事業への転換を後押ししました。1968年、三井信託銀行と販売提携し、兵庫県芦屋市で自社マンションの第1号を着工します。工務店から、マンション屋への一歩でした。
「特命受注」——土地を仕入れて、建てて、売る発明
1969年、日商岩井との業務提携をきっかけに、長谷川工務店は自ら集めた土地情報をデベロッパーへ持ち込み、建築計画ごと提案する営業モデルを編み出しました。これが「特命受注」です。競争入札を経ずに受注を決めるこの仕組みは、当時の建設業界には前例のないものでした。
土地を自ら仕入れてから買い手を探すため、在庫リスクを引き受ける営業でもありました。それでも1973年、長谷川工務店はマンション施工戸数で日本一(3万5千戸)を達成し、1981年には首都圏の施工シェアが約20%に達して業界首位に立っています。
「70万戸」——マンションの1割はこの会社が建てた
長谷工の累計マンション施工戸数は、2011年に50万戸、2017年に60万戸、2023年には70万戸を突破しました。これは国内にある分譲マンションストックの、およそ1割にあたる規模です。
1973年の「施工戸数日本一」達成から半世紀。一つの会社が建てたマンションの数として、他に類を見ない規模に積み上がっています。
1兆3,000億円の借金と、13円になった株価
1985年以降、長谷川工務店は「脱マンション」を掲げ、ホテル・リゾート事業などに約1,000億円を投資しました。1988年には社名を長谷工コーポレーションへ改めています。
ですが、バブル崩壊は容赦なく襲いかかりました。不動産の含み損は1,600億円に膨らみ、有利子負債は自己資本の4倍を超える1兆3,000億円まで積み上がります。1999年、株価は「倒産株価」と呼ばれる13円まで沈みました。
「一律48%」——34の金融機関に頭を下げた再建
1996年3月期、合田耕平社長は不動産含み損を含む1,850億円の特別損失を一括で計上する決断をしました。毎年少しずつ赤字を出し続けるより、一度に処理して翌年から黒字化する方がよいという判断だったといいます。
1998年、長谷工は34の金融機関に融資の48%カットを要請しました。債務免除総額は3,942億円に達しています。1999年、合田社長は引責辞任し、建設省出身の嵩聰久氏が後を継ぎました。2002年には1,428億円の優先株を発行して債務を株式化し、マイナスだった自己資本比率がプラスへ転じています。
マンション専業に絞り込み、業界初の経常利益1,000億円へ
再建の過程で、長谷工はホテル・リゾートなど多角化した事業から手を引き、マンション専業への回帰を進めました。2003年3月期には、特命受注の比率が85%に達しています。
2014年、1975年入社の辻範明氏が社長に就任しました。2018年3月期、連結経常利益は初めて1,000億円(1,005億円)を突破します。マンション専業のゼネコンが経常利益1,000億円を超えたのは、業界で初めてのことでした。
マンション修繕の談合——公正取引委員会が動いた
2025年、公正取引委員会はマンションの大規模修繕工事をめぐる談合の疑いで、グループ会社の長谷工リフォームを含む20社超に立ち入り検査を実施しました。対象は関東地方の100件を超える大規模修繕工事です。
各社は遅くとも2021年秋以降、管理組合から委託された工事の見積もり合わせで、事前に受注業者を決めていたとされています。長谷工リフォームを含む約40社について、公正取引委員会は独占禁止法企業同士の不当な競争制限やカルテル、行き過ぎた企業結合を規制する法律。違反を認定し、総額16億円の課徴金の納付を命じる方針を固めたと報じられました。マンション修繕業界では長年の慣行だったとの指摘もあり、業界全体の構造が問われています。
競合が去った市場で、長谷工だけが残った
首都圏の施工シェアは2008年の20.7%から2017年には34.5%まで拡大し、業界1位の座を固めていました。近年はさらに、労務費や資材費の上昇、そして時間外労働の規制強化、いわゆる「2024年問題」を背景に、マンション建設から撤退する競合が相次いでおり、長谷工への発注はいっそう集中しています。
2023年3月期には、連結売上高が初めて1兆円を超えました。ベトナムなどアジアでの住宅事業にも力を入れており、尼崎の木造建築請負から始まったこの会社は、いま国内外でマンションづくりの中心にいます。
