工場の機械に「頭脳」を与える。それだけを追い続けた技術者が、富士山のふもとの森に築いた会社だ。 外壁も、社員の制服も、修理に走る車も黄色い。 その黄色い会社が、長い沈黙を破ったのが2015年だった。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約1.6倍
(会社に残った利益。現金の増減とは異なります)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
石油ショック——自分で作った油圧の技術を捨てた
ファナックを一代で育てたのは、稲葉清右衛門さんという技術者でした。まだ誰も注目していなかった時代に、アメリカで生まれた数値制御という仕組みに目をつけ、機械技術を土台にした制御システムの開発に力を注いだと伝えられています。機械に指示を出す「頭脳」をつくる、という一点に賭けた人です。
その稲葉さんが、自分たちで開発した「電気・油圧パルスモータ」に見切りをつけます。石油ショックをきっかけに、電気で動くサーボモータへ舵を切ったのです。のちに本人は「自ら開発した技術に見切りを付けるのは大変な勇気が必要だったが、この決断がなければ今日の当社はなかった」と振り返っています。自分の作ったものに執着しなかったことが、この会社の背骨になりました。
ロボットへの参入——お客さんと競合しない道を選んだ
ファナックには、踏み込めない領域がありました。工作機械そのものをつくることです。工作機械メーカーは、NC装置を買ってくれる大事なお客さんでもあったからです。そこで選んだのがロボットでした。1974年、自社で開発し、まず自分の工場に入れます。
ロボットという、当時はまだほとんど手つかずだった最終製品の領域を選んだことで、顧客との競合を避けながら事業を広げられたと見る向きもあります。この選択が、のちにファナックを「工作機械の頭脳」と「ロボット」の両輪を持つ企業に育てていきました。
「黄色い城」——木を1本も切らずに移った本社
1984年、ファナックは東京都日野市から山梨県南都留郡忍野村へ本社を移転しました。移転先は富士山麓、標高1,000メートルの森の中です。自然保護のため、森の木は1本も切らずにすべて移植したと伝えられています。
工場の建物の向きがまちまちなのは、なるべく移植する木を減らすためだったとされ、ロボットシステム工場の建設時には、大きな木とその下の腐葉土をまとめて300メートル移動させる大工事まで行われたと伝えられています。54万坪の森は「ファナックの森」と呼ばれ、リスやシカといった野生動物も生息しています。
なぜ、わざわざ森なのか。稲葉さんは「工場には温度・湿度が大事。景色が良ければ一番いい」と語り、働く場所そのものが新しい製品を生むと考えていたと伝えられています。「こういう場所でないと10年後の商品は生まれない」とまで言い切りました。
ちなみに「黄色い城」というのは、たとえではありません。機械の扉も、社屋の外壁も、社員の制服も、修理に走る車も黄色です。例外は、人のすぐそばで働く協働ロボットだけ。ひと目で安全だと分かるように、こちらは緑色に塗られています。
iPhoneを削っていた機械——ブームが去ったあと
スマートフォンの背中にある、つるりとしたアルミの手ざわり。あれを削り出しているのが、ファナックの小型切削機「ロボドリル」です。iPhoneの本体を削る工程で使われ、組み立てを請け負う鴻海精密工業へ大量に納入されました。iPhone関連の売り上げは1年で523億円から869億円へ跳ね上がり、その大半をロボドリルが占めたと報じられています。手元の1台の裏側に、この会社の機械がいたわけです。
ところがスマートフォンのブームが一巡すると、追い風はそのまま逆風に変わります。ファナックは2019年3月期の決算で大幅な利益の落ち込みを発表しました。幅広い工場で使われる定番品で安定して稼いできた会社にとって、特定の相手と特定の製品に寄りかかることの怖さが表に出た出来事でした。その後は工作機械やロボットの需要が戻り、業績は持ち直しています。
肘のないロボットを買った——数か月でやめた判断
肘のないロボットアーム。そんな変わった構造を持つベンチャー企業、ライフロボティクスを、ファナックは2018年に丸ごと買い取りました。ねらいは、この独自技術と、自社の量産技術を組み合わせることでした。
ですが買収からわずか数か月後、ファナックはライフロボティクスの主力製品「CORO」の生産を中止すると発表します。ファブレス自社で工場を持たず、企画・開発に経営資源を集中する事業形態。のベンチャーだったライフロボティクスには量産の経験や品質管理の体制がなく、すでに納入していた製品にも不具合が多く発生していたためだとされています。ファナックは販売済みの製品をすべて回収し、自社製品への無償交換に応じました。法人としてのライフロボティクスもその年のうちに解散しています。信頼性を改善したうえでの再投入を目指すとされていますが、時期は明らかにされていません。
半年間、ホームページを閉じた——そこから株主と話し始めた
ファナックは日本語版のホームページを半年近く閉じ、決算説明会も取りやめていました。電子メールはほとんど使わずファックスで仕事を回し、投資家に会社を説明する部署も置かない徹底ぶりで、当時の会社四季報には「投資家への説明が足りない」と書かれています。ある海外投資家は、経営陣に会わせない姿勢が他のどの会社よりも際立っていたと振り返っています。
転機はその数年後でした。「物言う株主投資先企業の経営方針に対し、株主提案や公開の意見表明などで積極的に働きかける投資家。」として知られる米ヘッジファンド、サード・ポイントのダニエル・ローブ氏がファナック株の保有を公表し、1兆円を超える手元資金を使った自社株買いを要求します。ファナックは新設した株主対話窓口(SR部)を通じて機関投資家から意見を聞き、配当性向稼いだ利益のうち、どれくらいを配当として株主に還元したかを示す割合。を大きく引き上げ、株主還元の方針を打ち出しました。半年もウェブサイトを閉じていた企業が、外部からの一撃をきっかけに対話へと動いた出来事でした。
