肥料をつくる小さなカーバイド工場から始まった会社は、100年目に社名を「デンカ」へ改めた。 クロロプレンゴムで世界シェア首位。その足元で、青海工場の死亡事故と樹脂認証の不正にも向き合ってきた。

01

創業から現在へ — ストーリー

1915 — 1921
藤山常一の石灰窒素工場を継承して設立
1915年、電気化学工業(現・デンカ)は、藤山常一博士が創設した「北海カーバイド工場」を継承して設立されました。カーバイドから肥料である石灰窒素をつくることが、会社の出発点です。
1930年代 — 1950年代
有機合成分野への進出とセメント事業の開始
世界恐慌と第二次世界大戦を経て、電気化学工業は戦後、アセチレン系の有機化学分野に進出し、酢酸や酢酸ビニル、塩化ビニルなどを事業化します。同じ時期にはセメント事業も始めました。祖業から新しい事業が枝分かれしていった時期です。
1962
クロロプレンゴムを国内初、自社技術で企業化
1962年、電気化学工業はクロロプレンゴムの国産化に成功します。同じ年には千葉県市原市の丸善石化コンビナートにも参画し、原料から樹脂加工までの一貫した生産体制を首都圏に築きました。
1990年代
バブル崩壊後の業績悪化と事業の絞り込み
1990年代初めのバブル経済崩壊と、それに続く平成不況により、電気化学工業の業績は大幅に悪化しました。コスト削減や不採算事業の撤退・縮小を進め、機能性樹脂や電子・機能材料などを重点事業に絞り込む再構築を行っています。
2015
創立100年で「電気化学工業」から「デンカ」へ改称
2015年、創立100年を機に、電気化学工業は社名を「デンカ株式会社」に変更しました。事業が電子材料や医薬にも広がり、社名が会社の実態を表しにくくなっていたためです。
2023
青海工場の死亡事故と樹脂認証の不正
2023年、青海工場で配管破裂事故が起き、死亡者1人を含む3人が被害を受けました。同じ年には樹脂製品の認証をめぐる不適切行為も判明し、会社は原因究明と再発防止に取り組んでいます。
2025
世界首位のクロロプレンゴム、米国工場を停止
2025年3月期、デンカは採算の悪化した米国工場の停止を決めました。世界シェア首位の製品でも、採算が合わなければ設備を畳む——そういう判断です。
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事業の構造 — 何で稼いでいるか

柱 01
電子・先端プロダクツ事業
リチウムイオンバッテリー向けの導電性材料「デンカ ブラック®」や、半導体・電子部品向けの放熱基板、セラミックス粉末などを手がける事業です。半導体封止材向けの溶融シリカフィラーで世界トップシェアを持つとしています。
柱 02
ライフイノベーション事業
インフルエンザワクチンや、新型コロナウイルスなどの抗原検査キットを含む診断用試薬を手がける事業です。1972年からインフルエンザHAワクチンを製造・販売し、国内の安定供給の一翼を担ってきました。
柱 03
エラストマー・インフラソリューション事業
創業以来のカーバイド技術を土台に、クロロプレンゴムや特殊混和材、農業用の肥料・排水管などを手がける事業です。世界シェア首位のクロロプレンゴムが、この事業の中核を担っています。
柱 04
ポリマーソリューション事業
スチレン系の機能性樹脂やABS樹脂、食品包装用シート、ウィッグ用の合成繊維などを手がける事業です。自動車や電機、食品など幅広い業界に樹脂加工製品を供給しています。
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投資指標

株価
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配当利回り
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年間予想
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PBR
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株価純資産倍率
時価総額
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円換算
52週高値
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過去1年
52週安値
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過去1年

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投資家の博士

投資家目線のポイント

デンカは肥料・ゴムから電子材料・医薬まで手がける多角化企業ですが、2023年の青海工場事故や樹脂認証の不正のように、安全と品質に関わる不祥事の再発防止がどう実行されているかは、長期的に注目される視点と言えそうです。

クロロプレンゴムのように世界シェア首位を持つ事業でも、採算が悪化すれば工場停止に踏み切っています。シェアの高さと収益性は必ずしも一致しないという点は、素材メーカーを見る上で参考になりそうです。

原料も電気も自前——青海工場がデンカの土台になった

引き継いだ工場は、北海道にありました。三井系有力者の出資を受けて会社の形が整うと、翌年には福岡県に大牟田工場を、その後は新潟県に青海工場を開設します。

青海工場は、豊富な石灰石資源と自家水力発電所を兼ね備えた拠点でした。原料も電気もその場でまかなえるこの立地が、のちのデンカを支える主力拠点になります。石灰窒素は農家から高い評価を受けて需要を伸ばし、この商いが今も続く企業の礎になりました。

自社技術だけでつくり切ったゴムが、60年動き続けて世界首位になった

クロロプレンゴムは、当時工業化が難しいとされていた素材でした。技術を海外から買うのではなく、国内メーカーとして初めて自社技術で企業化しきったところに、この会社の性格が出ています。

その技術は今も生きています。青海工場の製造プラントは稼働開始から60年を超えて動き続け、デンカは世界シェア首位のクロロプレンゴムメーカーになりました。

100年使った社名を手放した——商号は「デンカ株式会社」に変わった

社名を変えるには、株主の同意がいります。定時株主総会で定款変更が承認され、商号は「デンカ株式会社」に変わりました。100年使われてきた「電気化学工業」の看板が、ここで下ろされたことになります。

背景には、海外でも呼びやすい名前にする狙いがあったと報じられています。長く親しまれた社名を手放す、創立100周年ならではの決断でした。

配管にたまったスケールが、TNT爆薬並みの爆発物質に変わっていた

2023年、青海工場(新潟県糸魚川市)で配管破裂事故が発生し、死亡者1人を含む3人が被害を受けました。配管にたまっていたスケールがクロロプレンモノマーと反応し、TNT爆薬に匹敵する発熱量の爆発物質に変わっていたことが原因とされています。「設備は安全」という思い込みが、対応の遅れにつながった可能性も指摘されました。

デンカと関連会社の樹脂製品でも、第三者認証をめぐる不適切行為が判明しています。関連会社の東洋スチレンでは2022年、UL認証登録とは異なる組成の樹脂を製造・販売していたことが判明。デンカ自身も、ガラス繊維強化ABS樹脂の一部で外注先工場がUL工場認定を取得していない状態が見つかりました。デンカは外部調査委員会を設置して原因究明を進めました。

その年の暮れには、会長や社長ら役員が報酬の一部を自主返上しました。安全対策とコンプライアンスの強化を進める姿勢を、同社は示しています。

世界一より、採算をとった——米国工場を止め161億円を減損

止めたのは、米国の製造設備でした。世界シェア首位を保ちながらも採算は悪化しており、約161億円の減損保有する工場・設備や、買収でついた「のれん」などの資産価値が下がったとき、目減り分を損失として計上する会計処理。損失を計上しています。

生産は新潟県糸魚川市の青海工場に集約されました。世界シェア首位の製品を、すべて一つの工場でつくる体制です。世界一の座を守ることよりも、採算の合う形を選んだ判断だったと報じられました。

肥料をつくる炉の技術が、半導体の材料に化けた

創業以来のカーバイド製造で培った電炉技術・高温技術・窒化技術は、無機・セラミック素材や金属との複合素材の開発に生かされてきました。デンカは、半導体封止材向けの溶融シリカフィラーで世界トップシェアを持つとしています。

アルミニウム基板「ヒットプレート」やセラミックス基板「AN・SNプレート」など、放熱材料の分野にも事業を広げています。肥料工場として始まった会社は、こうして半導体を支える電子材料メーカーへと姿を変えました。

肥料と合成ゴムの会社が、インフルエンザのワクチンもつくっている

デンカ生研の前身である生物理化学研究所は、1950年、東京芝浦電気(現・東芝)の100%子会社として設立されました。デンカは1972年からインフルエンザHAワクチンを製造・販売し、国内の安定供給の一翼を担ってきました。

2022年には新潟県の五泉事業所内にワクチン原液を製造する新棟が稼働を始め、生産能力を高めています。肥料と合成ゴムの会社が、いつのまにか予防・診断・治療を支える会社にもなっていました。