半導体が「ちゃんと動くか」を最後に確かめる検査装置で、世界トップに立つ会社がある。アドバンテストだ。 1954年、通信省を辞めた技術者が興した小さな計測器メーカーは、一度は経営危機で創業者が座を追われながらも、世界的な検査装置メーカーに育った。 いまは生成AIの検査需要を追い風に、2026年に過去最高益を更新した。

01

創業から現在へ — ストーリー

1954 — 1972
通信省を辞めた武田郁夫が、豊橋で計測器メーカーを興す
1954年、通信省電気試験所に勤めていた武田郁夫は30歳で独立し、愛知県豊橋市に「タケダ理研工業株式会社」を設立しました。大手電機メーカーがあまり手がけない電子計測器のニッチ市場を選び、代替の効かない独自製品を売る路線を取ったと伝えられています。1972年には国産初のICテストシステム「T320」を発売し、のちの半導体テスト装置事業への転換点となりました。
1975 — 1983
経営危機で創業者は経営権を失い、富士通の傘下で立て直す
1975年のオイルショックで、タケダ理研工業は売上高80億円に対し最終赤字1億円、有利子負債50億円という危機に陥りました。取引銀行が追加融資を拒み、同年末には社内クーデターで創業者・武田は経営権を失ったと伝えられています。翌1976年、富士通が28%を出資して経営に加わり、機種別の原価管理の導入や値引き禁止など立て直しを進めました。1983年、東証第二部への上場にこぎ着けています。
1985 — 1996
アドバンテストへ社名変更、世界シェア1位に
1985年、会社は社名を株式会社アドバンテストに変更し、同年、半導体テスタの世界市場でシェア第1位を獲得しました。同じ年に東証第一部への指定替えも実現しています。その後アジア市場を重視する方針を打ち出し、1996年には世界シェア約40%を確保して首位の座を固めたと伝えられています。
2009 — 2015
リーマン・ショックで巨額赤字、3期連続の苦しい時代へ
2009年3月期、世界的な金融危機で半導体需要が急減し、アドバンテストは当期純損失680億円を計上しました。翌2010年3月期も赤字が続き、2011年3月期に一時黒字化したものの、2012年3月期から2014年3月期にかけて再び3期連続で最終赤字となります。無借金経営を続けていたため財務体力への影響は限定的で、2015年3月期には当期利益167億円へと黒字転換しました。
2011
米Verigyを買収、業界の勢力図を塗り替える
2011年、アドバンテストは競合の半導体テスト装置大手Verigyの買収を決めました。Verigyは前年、別の競合LTX-Credenceとの合併に合意していましたが、アドバンテストが1株15ドルの現金で買収する対案を示すと、Verigyの取締役会はこちらを「より優れた提案」と判断します。買収総額は約909億円にのぼりました
2016 — 2017
富士通との資本関係が、40年越しに解消される
2016年、アドバンテストは2001年から続けてきたニューヨーク証券取引所への上場を廃止しました。2017年には、1976年の経営危機で救済に入った富士通が保有する全株式を売却し、約40年続いた資本関係に終止符が打たれています。ここでアドバンテストは名実ともに独立した経営体制へ移行しました。
2023 — 2026
生成AIの検査需要で、過去最高益を更新
生成AI向け半導体やHBM(広帯域メモリー)の検査需要が急拡大し、アドバンテストの業績は急速に伸びました。2024年には米エヌビディア向けの需要などを背景に業績予想を上方修正し、株価が上場来高値を更新しています。2026年3月期の売上高は1兆1,286億円、当期利益は3,753億円と、いずれも過去最高を更新しました
TEN YEARS

10年で、売上は約7.2倍

1.5兆円
7,500億円
2017 · · · · · · · · 2026
売上 純利益(手元に残った利益)
売上
10年前
1,559億円
現在
11,286億円
約7.2倍に増加
純利益
(手元に残った利益)
10年前
142億円
現在
3,754億円
売上100円につき約33円
従業員
10年前
4,414
現在
7,241
約1.6倍に増加
02

事業の構造 — 何で稼いでいるか

柱 01
半導体テストシステム事業
SoC(システムオンチップ)向け、メモリ向け、パワー半導体向けの3種類のテスト装置を手がける中核事業です。半導体が設計どおりに動くか、性能や耐久性を検査する装置で、最先端の半導体になるほど検査の難易度が上がるため、需要が続きやすい構造になっています
柱 02
メカトロニクス関連事業(テストハンドラ・周辺機器)
検査対象の半導体を運ぶテストハンドラや、検査装置と半導体をつなぐデバイス・インタフェースなど、テストシステムの周辺機器を手がける事業です。検査装置本体だけでなく、検査工程全体を支える役割を担っています。
柱 03
サービス他事業(保守・中古装置・コンサルティング)
販売した装置の保守やアップタイム支援、顧客の検査工程を助けるコンサルティング、中古装置の販売などを担う事業です。装置を売って終わりにしない、継続的な収益源になっています。
03

投資指標

株価
——
東証プライム
前日比
——
——
配当利回り
——
年間予想
PER
——
株価収益率
PBR
——
株価純資産倍率
時価総額
——
円換算
52週高値
——
過去1年
52週安値
——
過去1年

取得中…

投資家の博士

投資家目線のポイント

アドバンテストの業績は、生成AI向け半導体の投資サイクルに強く連動する傾向があります。AI関連の設備投資が一服すれば、検査装置への注文も波打つ可能性がある構造だという視点を持っておくとよさそうです。

この会社は2009年前後や2012〜2014年に大きな赤字を経験した過去があります。半導体市況は好況と不況の波が大きい業界だという点は、最高益のニュースを読むときの前提として押さえておきたいところです。

通信省を辞めた30歳、豊橋で計測器メーカーを興す

武田郁夫は日本大学を出たあと、国の通信省電気試験所に勤めていました。1954年、30歳で独立し、愛知県豊橋市に「タケダ理研工業株式会社」を設立します。選んだのは、大手電機メーカーがあまり手がけない電子計測器というニッチな分野でした。

1957年には本社を東京に移し、首都圏での事業展開を始めています。1972年、国産初のICテストシステム「T320」を発売したことが、のちに世界の半導体を支える会社になる最初の一歩でした。

「原価計算すら存在しない」——見えないツケ

1960年代、タケダ理研工業はミニコンピュータを使った計測器の開発を進め、技術面では前進していました。ですがその裏側で、原価計算すら存在しないという経営管理の欠陥が積み重なっていたと伝えられています。

どの製品がいくら儲かっているのかを誰も把握していない状態は、会社が成長するほど危うさを増していきました。この欠陥は、やがて1970年代半ばの危機として表面化することになります。

社内クーデターから、世界シェア1位への道のり

1975年のオイルショック時、タケダ理研工業は売上高80億円に対し、最終赤字1億円、有利子負債50億円という危機に陥りました。取引銀行は追加融資を拒み、同年末には社内クーデターが起き、創業者・武田は経営権を失ったと伝えられています。

翌1976年、富士通が28%を出資して経営に加わり、機種別の原価管理の導入や値引き禁止、不採算のミニコン計測器事業からの撤退を進めました。1983年に東証第二部へ上場し、1985年には社名を「株式会社アドバンテスト」に改め、同じ年に半導体テスタの世界シェア第1位を獲得します。危機からおよそ10年で、会社は世界一のメーカーへ生まれ変わりました。

680億円の赤字——リーマン・ショックと3期連続の苦しい時代

2008年秋の世界的な金融危機は、半導体業界にも大きな打撃を与えました。2009年3月期、アドバンテストは当期純損失680億円という大幅な赤字に転落します。

翌2010年3月期も赤字が続き、2011年3月期に一時黒字化したものの、2012年3月期から2014年3月期にかけて再び3期連続で最終赤字となりました。ただし同社は無借金経営を保っていたため、資金繰りへの影響は限られていたとみられます。2015年3月期には当期利益167億円へと黒字転換し、業績は回復に向かいました。

「T2000」と「93000」——Verigy買収で塗り替わった勢力図

アドバンテストの「T2000」と、競合Verigyの「93000」は、ともに半導体を検査するロジックATE(自動テスト装置)の看板製品として、長く市場で競い合ってきました。2011年、アドバンテストはこのVerigyの買収を決めます。

Verigyは前年、別の競合LTX-Credenceとの合併に合意していましたが、アドバンテストが1株15ドルの現金で買収する対案を示すと、Verigyの取締役会はこちらを「より優れた提案」と判断しました。買収総額は約909億円。アナリストからは、この買収でロジック・メモリATE市場の競争環境が大きく塗り替わるとの見方が示されました。

富士通との40年、資本関係に終止符

1976年の経営危機で救済に入った富士通は、その後もアドバンテストの大株主であり続けました。2005年には保有株式の一部を売却し、関係は徐々に薄まっていきます。

2017年、富士通は退職給付信託を通じて保有していた全株式を売却しました。危機を救ってから40年以上続いた資本関係は、ここで解消されています。アドバンテストは名実ともに独立した経営体制へ移りました。

HBM検査の「絶対王者」——生成AIが生んだ最高益ラッシュ

2023年ごろから、生成AIブームを背景に高性能な半導体やHBM(広帯域メモリー)の需要が世界的に急増しました。世代が進むほど検査の難易度が上がるHBMの性質は、アドバンテストにとって継続的な検査需要を生む構造になっています。

2024年には米エヌビディア向けの需要などを背景に業績予想を上方修正し、株価は分割考慮後の上場来高値を連日で更新しました。2026年3月期には売上高1兆1,286億円、当期利益3,753億円と、いずれも過去最高を記録しています