冷蔵庫やエアコンでおなじみの日立製作所。その正体は、発電から鉄道、ITまで手がける巨大企業だ。 2009年、製造業史上最大の赤字を出し、そこから選択と集中で生まれ変わった。 いま日立は、エネルギーとデジタルを両輪にした企業へと姿を変えている。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約1.2倍
(手元に残った利益)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
投資家目線のポイント
日立は日立化成や日立金属など多くの子会社を手放し、いまはエネルギー・モビリティ・ITを軸にした事業構成に姿を変えています。今後は、事業間でデジタル基盤Lumadaを共有できるかが、成長を左右する視点になりそうです。
ABBやGlobalLogicのような大型買収を重ねる一方で、英国の原発計画撤退や鉄道車両の不具合のように、海外の大型プロジェクトでつまずいた例もあります。海外事業の進み方は、業績を見るうえで注目しておきたいポイントです。
「5馬力誘導電動機」——鉱山の修理工場から生まれた国産技術
1906年、小平浪平は茨城県の日立鉱山に工作課長として入りました。小平は電気機械の国産化を志し、1910年、国産初の5馬力誘導電動機を完成させています。
日立はこの年を創立年と位置づけています。翌1911年には久原鉱業の一工場として電気機械の製造を本格化し、1920年には日立・亀戸の両工場を持つ株式会社として独立しました。鉱山の修理工場が、のちに日本最大級の総合電機メーカーへ育っていく出発点でした。
小平浪平、「公職追放」からの復帰
創業者・小平浪平は、1929年から1947年まで日立製作所の初代社長を務めました。戦時中の軍需生産への関与を理由に、敗戦後の1947年、小平は公職追放の対象になっています。
追放が解除されたのは1951年のことでした。小平は同じ年、日立の相談役として復帰しますが、その年のうちに77歳で亡くなっています。国産化にこだわり続けた技術者の晩年は、戦争の時代と重なっていました。
新幹線とMARS-1——高度成長を支えた技術力
戦後、日立は家電から発電設備までを手がける総合電機メーカーへと成長しました。1960年には国鉄向けに座席予約システム「MARS-1」を完成させています。当時としては先進的な、コンピューターによる座席管理の仕組みでした。
1964年には東海道新幹線用の電車も製作しました。高度経済成長期の日立は、鉄道インフラという社会の基盤を支える技術を、次々と実用化していきました。
「7,873億円」——製造業史上最大の赤字
2008年秋のリーマン・ショックは、世界中の製造業を直撃しました。日立も例外ではなく、自動車や半導体向けの需要が急減し、2009年3月期の連結決算で当期純損失7,873億円を計上しています。
これは当時の日本の製造業として過去最大の赤字でした。売上高が前の期から1割以上落ち込み、繰延税金資産の評価減なども重なった結果です。日立にとって、戦後最大級の危機でした。
「100日ルール」——川村隆が敷いたラストマン精神
巨額赤字を受け、2009年に社長兼会長に就任したのが川村隆でした。川村は、社長・会長と副社長5人の合計6人だけで100日以内に重要事項を決めるという意思決定の仕組みに変えたと、自著で振り返っています。
さらに、上場していたグループ会社の完全子会社化も進めました。子会社に流れていた利益を本社に取り込み、グループ全体の力を集める狙いだったと川村は説明しています。この改革を経て、日立は黒字転換を果たしました。
上場子会社を切り離す「選択と集中」
黒字転換のあとも、日立の事業再編は続きました。かつて20を超えていた上場子会社は、日立国際電気やクラリオンなどの売却を経て、2019年時点で4社にまで減っています。
さらに「御三家」と呼ばれた日立化成は、昭和電工へのTOB買収したい会社の株式を、価格・期間・株数をあらかじめ公表して市場外で買い集める手法。が2020年に成立して日立の手を離れました。日立金属についても、全保有株式をファンド連合に売却すると発表しています。祖業に近い素材・部品の事業よりも、エネルギーとITに経営資源を集中させる判断でした。
英国原発、凍結から撤退までの20カ月
日立は英国アングルシー島で、新規原子力発電所を建設する「ホライズンプロジェクト」を進めていました。ですが資金調達や採算のめどが立たず、2019年にプロジェクトを凍結し、その時点で減損保有する工場・設備や、買収でついた「のれん」などの資産価値が下がったとき、目減り分を損失として計上する会計処理。損失等2,946億円を計上しています。
凍結から時間が経っても状況は改善せず、日立は2020年、正式にプロジェクト運営からの撤退を決めました。海外での大型インフラ事業に伴うリスクの重さを、日立自身が示した出来事でした。
「クラス800」の亀裂——英国高速鉄道の大量運休
日立は英国で、高速鉄道車両「クラス800」シリーズを走らせていました。ですが2021年、車体を持ち上げる部分などに亀裂が見つかり、地元記者の取材によれば亀裂が確認された車両は800両にのぼったと報じられています。
亀裂の原因について日立レールは、応力腐食割れの可能性を挙げたと報じられています。ドル箱である高速列車の運休によって運行会社は大幅な減収が避けられないとされ、「鉄道の日立」の信頼を損ねる出来事になりました。
ABBとGlobalLogic——1兆円級の買収で描いた次の成長
2020年、日立はスイスABBの送配電システム事業を約7,400億円で買収し、日立ABBパワーグリッド(現・日立エナジー)を発足させました。翌2021年には、米国のIT企業GlobalLogicを約1兆円で買収しています。
送配電というエネルギーの基盤と、ソフトウェア開発力という両輪を、あわせて1兆円を大きく超える投資で手に入れたことになります。日立は現場とデジタルをつなぐ事業モデルへの転換を進めています。
