神戸で震災を経験した三木谷浩史は、たった6人・13店舗の「楽天市場」からこの会社を始めた。 携帯電話事業では、格付け会社が投資不適格級と判定するほどの危機に見舞われる。 それでも楽天は、買い物・決済から携帯電話までを一つのグループで手がける会社へと成長した。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約3.2倍
(会社に残った利益。現金の増減とは異なります)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
投資家目線のワンポイント
楽天の業績は、ネット通販・金融・モバイルの3事業に分けて見ると分かりやすくなります。稼ぎ頭の金融が生む利益を、先行投資が続くモバイルがどれだけ打ち消しているか。その差し引きがグループ全体の損益を決めます。
「人生は有限だ」——三木谷浩史はなぜ銀行を辞めたのか
1995年、阪神・淡路大震災が神戸のまちを襲いました。日本興業銀行に勤めていた三木谷浩史は、この震災で親族を失う経験をしたと報じられています。人生は有限だという思いを強めた三木谷は、同じ年のうちに銀行を辞めました。
翌々年、株式会社エム・ディー・エムを立ち上げ、仮想商店街「楽天市場」を開きます。当時、仮想商店街は大手シンクタンクなどが手がけるもので、出店料は月数十万円が当たり前でした。三木谷はこれを月額5万円の固定制にし、コンピューターに詳しくない人でも店を持てる仕組みにします。誰でもネットで物を売れる場をつくるという発想が、その後の急成長の土台になりました。
残り4カ月で名乗りを挙げた——ゼロからチームを編成した
2004年、球団の合併をめぐって球界が揺れるなか、楽天は「来シーズンからの参入を目指す」と名乗りを挙げました。翌シーズンの開幕に向けたキャンプまで、残された時間はわずか。ぎりぎりのタイミングでした。
同じ年のうちに日本のプロ野球組織が新規参入を承認し、プロ野球界では50年ぶりの新規球団が決まります。ゼロからチームを編成しました。ITの通販会社が、プロ野球団のオーナーにもなった瞬間でした。
公用語を英語に変えた——TOEIC平均526点からの出発
楽天は、従業員のほとんどが日本人という、当時としては珍しくない会社でした。三木谷浩史は、創業当初から掲げる「グローバルでナンバーワンのインターネットサービス企業」という目標に加え、海外子会社との意思疎通が不十分だったことを英語化の理由として説明しています。
2012年、楽天は社内の公用語を正式に英語へ変えました。役職ごとにTOEICの目標点を設け、届かなければ昇格できない仕組みにしています。導入前に平均526点だったTOEICスコアは、公用語化の準備期間のうちに700点近くまで伸びました。新卒採用や経営層に占める外国人の比率も高まっています。
2年で畳んだ「楽酷天」——中国ECという高い壁
2010年、楽天は中国の検索大手・百度と合弁会社を設立し、インターネット・ショッピングモール「楽酷天」を始めました。しかし中国国内ではEC事業への投資が過熱して競争が激しくなり、業績は計画を下回る状態が続きます。
楽天は百度側と協議を重ねましたが、事業を根本から立て直すのは難しいと判断し、2012年にサービスの終了を決めました。累計出資額は約8.6億円、開始から2年足らずで事業を畳みました。旅行予約など一部の中国事業は、その後も続けています。
機内での一言から動き出した——FCバルセロナとの4年
楽天はスペインの動画配信会社Wuaki.tvを買収し、バルセロナに拠点を持ちました。この現地法人が、名門サッカークラブ・FCバルセロナがスポンサーを探しているという情報を本社に伝えます。
三木谷浩史はプライベートジェットの機内で側近と交わした会話でこの話に強い関心を示し、そこから交渉が動き出したと報じられています。ほどなく楽天は、FCバルセロナのユニフォーム胸に社名を掲げる4年契約で基本合意しました。世界的なブランド認知の獲得が狙いと報じられていますが、新型コロナウイルスの影響でスポンサー料は減額され、延長分も含めて走ったのち、2021-22シーズンを最後に契約は終了しました。
他社の回線を借りずに——基地局をゼロから自前で築いた
携帯電話事業への参入で、楽天は他社の基地局網を借りるのではなく、自前の設備をゼロから築く道を選びました。全国に電波を届けるには膨大な数の鉄塔とアンテナが必要で、用地の交渉や工事は計画どおりには進みません。エリアが埋まるまでの間は、他社の回線を借りるローミング費用がのしかかりました。
自社エリアの拡大につれて、他社に払うローミング費用は下がっていきました。それでも基地局への先行投資は重く、モバイル事業の赤字はふくらんでグループ全体の足を長く引っ張ります。楽天は投資のペースを緩めませんでした。
「社債の買い手がいない」——資産を売って現金をつくった
日本郵政から約1,500億円の出資を受けてもモバイルの赤字は止まらず、海外の格付け会社S&Pは楽天グループの格付けを投資不適格級まで引き下げました。市場では「もはや日本には、楽天の社債を買える機関投資家はいない」との声も出るほどでした。
楽天は手元の資産を切り離して現金をつくる道を選びます。子会社の楽天銀行を東証プライム東京証券取引所の上場区分の一つ。2022年の市場再編で、上場企業はプライム・スタンダード・グロースの3区分に分けられた(それ以前は市場第一部・第二部やマザーズと呼ばれていた)。市場に上場させ、大型の資金を調達しました。証券子会社・楽天証券ホールディングスの上場も一度は準備しましたが、のちに取り下げ、株主であるみずほ証券との連携を深める方針へ切り替えています。
黒字化に手が届いた——それでもグループ全体は赤字が続く
参入からしばらくは、利用者が増えるほど設備投資と費用も膨らむ苦しい時期が続きました。楽天モバイルは他社に払うローミング費用を圧縮し、自社の電波が届く範囲を広げることで、利用者一人あたりの採算を少しずつ改善していきます。つながりにくい建物の中でも届きやすい「プラチナバンド」の割り当ても、弱点をやわらげました。
その積み重ねで、モバイル事業はようやく黒字化に手が届く段階に入ります。ただしグループ全体では最終赤字がなお続き、通販で稼いだ利益を通信の返済と投資に回す構図は変わっていません。国内の格付け会社は、格付けの見通しを「ネガティブ」から「安定的」へ戻しました。通販から始まった会社が通信という柱を育て直す作業は、まだ半ばです。
