滝崎武光が、二度の倒産を経て尼崎で興した小さな会社だった。 代理店を使わない直販と、自社工場を持たないファブレス自社で工場を持たず、企画・開発に経営資源を集中する事業形態。経営という非常識な組み合わせが、製造業離れしたもうけの仕組みを生んだ。 新商品の7割が世界初を掲げ、社員の給与水準も国内屈指を保ち続けている。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約3.7倍
(会社に残った利益。現金の増減とは異なります)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
二度の倒産——三度目で立ち上がった
滝崎武光は、起業しては倒産することを二度繰り返しました。兵庫県立尼崎工業高等学校を卒業後、外資系のプラント制御機器メーカーに勤めたのち独立しましたが、事業は失敗に終わります。二度目の起業も、同じように失敗しました。
27歳の滝崎が選んだ三度目の事業は、電線メーカー向けの自動巻線機づくりでした。二度の失敗のあとの三度目が、キーエンスの出発点になりました。
食品も医薬品も宅配便も——効果で値段を決める
キーエンスのセンサーや測定器は、私たちが日々受け取る宅配便の荷物にも使われています。自動車や半導体はもちろん、食品・医薬品・物流といったあらゆる業界の製造・物流ラインの中に、キーエンスの機械が入り込んでいます。
特定の業界に依存しない事業基盤の上で、新商品の約7割は世界初または業界初の機能を持つとされます。単なる価格やスペックの競争ではなく、原価でなく効果で値段を決める姿勢が、高い利益率を支えています。
350円が550円に——ため込んだ会社が、ついに動いた
複数の機関投資家が「資本の使い道が理解できない」と不満を漏らすほど、キーエンスは稼いだお金を使わずに積み増していました。株主との対話に消極的だという評判が、投資家の間で広がっていきます。
不満の声は次第に和らぎ、2025年についに配当が350円から550円へ引き上げられました。長く現金をため込む経営で知られたこの会社が、株主還元へと舵を切った転換点でした。
「カリスマではない」——創業者なしで回る会社にした
滝崎武光は、自分がいなくても組織が回る体制をつくることを意識し続けたと、周囲に何度も語っていたと報じられています。年次や肩書きにとらわれないフラットな考え方を社内に浸透させ、「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」を重視する文化を築きました。
2000年に社長を退いたあとも、キーエンス出身者が社長を歴任する体制がそのまま続いています。カリスマに頼らない組織という発想が、代替わりのたびに引き継がれてきました。
歴代社長は40代半ばで就任——10年ごとに交代する
創業者の滝崎武光を除く歴代社長には、共通点があります。佐々木道夫は43歳、山本晃則と中田有はともに45歳で社長に就任しました。3人とも社長就任の直前に「事業推進部長」という役職を経験しており、在任期間はおよそ10年です。
2025年、中野鉄也が5代目社長に就任し、前任者たちと同様のリズムで交代しました。ある外資系証券会社のアナリストは、この規則性を「何かしらのキーエンスウェイなるものがあるのだろう」と評しています。
一太郎のジャストシステム——畑違いの45億円を出資した
2009年、資金繰りに苦しんでいたジャストシステムに対し、キーエンスは第三者割当増資を引き受けて約45億円を出資しました。
FA機器とはまったく異なるソフトウェア分野への出資でしたが、ジャストシステムの技術力・開発力を評価したうえでの判断だったと報じられています。畑違いの一手は、その後もキーエンスの持分法適用会社として続いています。
「接待はしたくない」人は不要——日本一の給料で応えた
キーエンスの前身リード電機は、就職希望者に対して「飛び込みなど汗をかきながら体力を使う営業」や「接待など顧客の情に訴えて買ってもらう営業」がしたい人は採用しないと説明していたと伝えられています。顧客と対等な立場で向き合う姿勢を貫いたことが、同社の営業スタイルの原点になりました。
創業者が語っていたという「日本一給料が高い会社」という夢と、1991年に整えた業績連動の賞与制度が重なり、平均年間給与は5年連続で2000万円を超える水準になっています。
工場を持たない会社が——その日のうちに届ける
キーエンスは、注文を受けた全ての商品をその日のうちに出荷する体制をグローバルで敷いています。単なる物流の効率化ではなく、顧客が必要なときにすぐ使え、生産ラインを止めないことを最優先にした結果だと同社は説明しています。
自社では生産設備を持たないファブレス経営を貫きながら、出荷は徹底してその日のうちに済ませています。キーエンスの商品価値は、工場を持たない会社が、その日のうちに届けるという組み合わせの上に成り立っています。工場のラインが一つ止まれば、その先で作られる製品も店頭に並ばなくなりかねない。翌日ではなくその日のうちに届けることは、そうした事態を防ぐ意味を持っています。
