肥料をつくる小さなカーバイド工場から始まった会社は、100年目に社名を「デンカ」へ改めた。 主力製品で世界シェア首位を守る一方、青海工場の死亡事故と樹脂認証の不正にも向き合ってきた。
創業から現在へ — ストーリー
10年で、売上は約1.1倍
(会社に残った利益。現金の増減とは異なります)
事業の構造 — 何で稼いでいるか
投資指標
取得中…
原料も電気も自前——青海工場がデンカの土台になった
引き継いだ工場は、北海道にありました。三井系有力者の出資を受けて会社の形が整うと、翌年には福岡県に大牟田工場を、その後は新潟県に青海工場を開設します。
青海工場は、豊富な石灰石資源と自家水力発電所を兼ね備えた拠点でした。原料も電気もその場でまかなえるこの立地が、のちのデンカを支える主力拠点になります。石灰窒素は農家から高い評価を受けて需要を伸ばし、この商いがのちの企業の礎になりました。
海外技術に頼らず——世界一のクロロプレンゴムをつくった
クロロプレンゴムは、当時工業化が難しいとされていた素材でした。技術を海外から買うのではなく、国内メーカーとして初めて自社技術で企業化しきったところに、この会社の性格が出ています。
1962年に確立したこの技術は、デンカを世界シェア首位のクロロプレンゴムメーカーへと押し上げました。
100年の社名を手放した——「デンカ株式会社」に変わった
社名を変えるには、株主の同意がいります。定時株主総会で定款変更が承認され、商号は「デンカ株式会社」に変わりました。100年使われてきた「電気化学工業」の看板が、ここで下ろされたことになります。
背景には、海外でも呼びやすい名前にする狙いがあったと報じられています。長く親しまれた社名を手放す、創立100周年ならではの決断でした。
配管の汚れが——TNT爆薬並みの爆発物質に変わった
2023年、青海工場(新潟県糸魚川市)で配管破裂事故が発生し、死亡者1人を含む3人が被害を受けました。配管にたまっていたスケールがクロロプレンモノマーと反応し、TNT爆薬に匹敵する発熱量の爆発物質に変わっていたことが原因とされています。「設備は安全」という思い込みが、対応の遅れにつながった可能性も指摘されました。
デンカと関連会社の樹脂製品でも、第三者認証をめぐる不適切行為が判明しています。関連会社の東洋スチレンでは2022年、UL認証登録とは異なる組成の樹脂を製造・販売していたことが判明。デンカ自身も、ガラス繊維強化ABS樹脂の一部で外注先工場がUL工場認定を取得していない状態が見つかりました。デンカは外部調査委員会を設置して原因究明を進めました。
その年の暮れには、会長や社長ら役員が報酬の一部を自主返上しました。安全対策とコンプライアンスの強化を進める姿勢を、同社は示しています。
世界一より採算をとった——米国工場停止で161億円減損
止めたのは、米国の製造設備でした。世界シェア首位を保ちながらも採算は悪化しており、約161億円の減損保有する工場・設備や、買収でついた「のれん」などの資産価値が下がったとき、目減り分を損失として計上する会計処理。損失を計上しています。
生産は新潟県糸魚川市の青海工場に集約されました。世界シェア首位の製品を、すべて一つの工場でつくる体制です。世界一の座を守ることよりも、採算の合う形を選んだ判断だったと報じられました。
肥料の炉が生んだ事業が——電子材料の利益が最大になった
創業以来のカーバイド製造で培った電炉技術・高温技術・窒化技術は、無機・セラミック素材や金属との複合素材の開発に生かされてきました。この技術を土台にした電子・先端プロダクツ事業は、溶融シリカや球状アルミナ、電子回路基板、半導体工程用材料などを手がけています。シンガポールの子会社デンカアドバンテックや中国の電化精細材料(蘇州)有限公司が、海外での製造・販売を担っています。
2026年3月期、電子・先端プロダクツ事業のセグメント利益は139億円となり、前の期の92億円から伸びました。それまで最も利益を稼いでいたライフイノベーション事業を上回り、デンカの中で最大の利益を生む事業に入れ替わりました。肥料をつくる炉の技術は、こうして会社の稼ぎ頭を支える電子材料に化けています。
肥料とゴムの会社が——ワクチンもつくっている
デンカ生研の前身である生物理化学研究所は、戦後まもなく東京芝浦電気(現・東芝)の100%子会社として設立されました。デンカは1972年からインフルエンザHAワクチンを製造・販売し、国内の安定供給の一翼を担ってきました。
2022年には新潟県の五泉事業所内にワクチン原液を製造する新棟が稼働を始め、生産能力を高めています。肥料と合成ゴムの会社が、いつのまにか予防・診断・治療を支える会社にもなっていました。
